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最後に言葉を交わした日
あまおとこるね。
彼女が生涯を終える日、彼女は俺に二回もそう言った。
終業式を目前にした、どんよりとした朝。
となりの席だった彼女は、鞄を席に置くなり言った。
「あまおとこるね」
うまく聞き取れなかった。
聞き返せばよかったんだと思う。
でも、その日の朝は昨晩サボってしまった宿題を片づけるのに必死で、そこまでする余裕がなかった。
二回目は、同じ日。
雨が上がって、晴れて。
昼休みが終わり、教室に教師が来る前のわずかな時間のことだった。
「あまおと、こるね」
山岸透子はどこか憂いを帯びて、でも口もとも目もとも愉しそうに微笑んで俺を見た。
今度こそ聞き返せばよかったのに。
教師が教室に入ってきてしまって、それでうやむやになってしまった。
だって、思わないじゃないか。
翌日に、彼女は持病の心臓病の発作で、十四年の短い生涯を閉じてしまうだなんて。
席がとなりになって、そんなに時間も経っていなかったのに。
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