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ⅡⅩⅢ 宿縁。
ⅡⅩⅢ
王宮の一室にあるそこは、ファリスに勝手を許された部屋なのか。白を基調に清潔感のある広々とした空間だった。
マライカはベッドに下ろされると、すぐに身体を丸めた。ファリスがすぐ側にいる。けれど今のマライカにとっては込み上げてくる胃のむかつきを抑えるのに必死で、他には何も考えられなかった。
胃液が食道を通って口の中に酸っぱい胃液が広がる。
苦しい。
好きな人がいるのに、本心を告げられないことが悲しい。
――けれど自分には自分の気持ちを告げる資格はない。
それがまた、マライカを苦しめる。
目尻に溜まった涙が涙袋に溜まる。
「苦しいのか?」
気遣いを見せるファリスは嘔吐くマライカの背を撫でた。彼の大きな手は心地好い。けれどいつまでもこの手に身を委ねていてはいけないのは判っていた。
できるなら、ずっとこの力強い腕に抱きしめられていたかった。彼の吐息を感じて広い胸に蹲り、愛している人に包まれる喜びを感じていたかった。
マライカはただ、両親と同じような人並みの生活をするのが夢だった。最愛の人と過ごす日常。平穏だけれど、それだけで幸福だと感じる。それだけを夢見ていた。
しかし、自分はオメガ。ベータの両親とは違う。
そして彼はアルファで、この世界に選ばれた人間。ただ孕むしか能がない自分は彼に相応しくない。そんなことは判っている。
だからファリスと離れなければいけない。それなのに、いざ離れようと思えば胸が引き裂かれそうに痛みを訴えてくる。
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