ⅡⅩⅢ 宿縁。

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 彼と離れると思うと胸が苦しい。  心が寒いと言っている。  それでも、マライカは胸の痛みを無視して彼の広い胸板を押した。 「もう、大丈夫です。ファリス様ご親切にありがとうございました」  ファリスと会うのはこれで最後だ。マライカは自分自身に言い聞かせた。  もう二度と会わないと決意すれば、瞼が熱を持つ。  また新しい涙が溢れてきて、視界が濡れる。それでも泣いてはいけない。  マライカは唇を引き結び、泣きたい気持ちを懸命に堪えた。 「マライカ……なぜ逃げる?」 「逃げてなどおりません。自分に相応しい場所へ帰るだけでございます」  自分が相応しい場所は、けっしてファリスの腕の中ではない。  所詮、気高く雄々しいアルファと子を宿すしか能のないオメガが釣り合う筈がないのだ。  そう自分に言い聞かせているとマライカの震える唇が突然塞がれた。  初めは自分がどういう状況に陥っているのかが判らず、瞬きを繰り返していたが、与えられた感触はまだ記憶に新しい。この感覚は――そう、忘れもしない。ファリスの唇だ。マライカは自分が口づけられていることに気がついた。  ファリスに口づけられただけで、マライカのみぞおちに熱が宿る。彼の背中に腕を回し、与えられた唇に酔い痴れた。官能の波がやってくる。マライカがうっすらと口を開けば、隙間を縫うように彼の舌が差し出された。互いの舌が絡み合えば、生まれた官能の波はみぞおちの中で大きな渦になってうごめくのを感じる。
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