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「――でも違う。ぼくじゃダメ。ぼくと居てはいけないんだ。……でも――貴方のためならぼくの命なんてあげる。貴方の命が危ぶまれる時は、ぼくの命を代わりに捧げます……だから、だからどうか……さようならをさせてください」
愛しているからこそ、彼を自由にしてあげたいと思った。
マライカのような足枷なんて彼には必要ではない。
ファリスが必要なのは大空を舞う大きな翼。共に泣き、共に笑い、共に進める対等な存在。
ただそれだけだ。
マライカには彼と共に進む資格はない。
なぜなら、オメガはアルファとは対等に成り得ないのだから――。
「君を花嫁に迎えたい。頼むから頷いてくれないか?」
「貴方は先ほど、盗賊だからぼくに見合わないとおっしゃいました。でも、違う。ぼくの方が貴方に見合わない! だけど――ダホマの酒場で初めて会った時から貴方を想っていました」
初めはただの一目惚れだと思っていた。大切な宝物として胸の奥にそっと仕舞っておくつもりだった。それなのに、初恋の相手に――ファリスに抱かれて自分の気持ちを再確認するなんて思いもしなかった。
「マライカ、君と離れてからどうしていたと思う? 君を想いすぎるあまり夜もろくに眠れず、やっと眠れたかと思えば夢の中で君を抱いている始末だ。おかげで朝を迎えた虚しさは口では言えないほど苦く苦しいものだった」
それは本当だろうか?
自分の身代わりなんてたくさんいる。
なにせファリスはとてもハンサムだ。自分でなくとも一夜の相手なんて彼がどうこうしなくとも相手の方から寄って来るに違いないのだ。
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