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エピローグ
◆
遙か上空では一点の曇りもない澄んだ青が広がっている。
一頭の駱駝に身を預けるマライカは、天を仰いだ。
頭上にはぎらつく太陽が今にもこの地を焦がさんとばかりにその雄々しさと威厳を誇示している。目の前に広がっているのはスーリー砂漠。熱気が蜃気楼を起こし、数キロ先にあるだろうオアシスを写しだしている。
漆黒のアバヤに身を包んだマライカは額の汗を拭う。熱気が体力を奪わんとマライカを襲うものの、それでもマライカは少しも苦しいとは感じなかった。
そう思わないのはひとえに、最愛の両親と、そして――。
「マライカ、辛いか?」
駱駝の手綱を引く彼――ファリスがいる。彼はマライカと、当初よりも膨らみはじめているマライカの腹を交互に見た。
「平気」
マライカはアバヤの中で頬を赤らめた。これから彼とジェルザレード山脈の麓で暮らすと思うと口元が緩んでしまう。
「マライカ、辛くなったら言ってちょうだいね。そのためにわたしが一緒にいるのだから」
母のメイファが声を弾ませて言った。彼女の駱駝を引いているのは父親のセオムだ。
なぜ両親と共にマライカとファリスがスーリー砂漠へ向かっているのかというと、言わずもがな、これからふたりの婚礼の儀式があるからだ。
王宮でファリスと再会を果たしたマライカは彼のプロポーズを受けた。――のはいいのだが、まさかこんなに早く婚礼の儀式をするとは思ってもいなかった。マライカはファリスの行動力を侮りすぎていたのだ。
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