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「苦しいか? だけどなぁ、お前たち外の奴らが俺たちに与えた苦しみはこんなもんじゃねぇんだよ!」
苦痛の声を漏らすマライカを不快に思ったのか、男は尚も憎々しげにマライカを見下ろす。さらには彼の拳がマライカの頬目掛けて打ち込んできた。
(殴られる!)
マライカは目を瞑ったものの、次の瞬間、ハイサムから聞こえた驚きの声に目を開けた。
そこにいたのは、ハイサムの頭、ファリスだ。彼は手首を掴み、配下を制していた。
「こいつは大切な人質だ。そこまでにしておけ」
ファリスが言い終えるなり、マライカの髪を掴んでいた男の手が緩んだ。同時にマライカの身体が地面に落とされた。
ファリスが大人しくなった配下の手を解くと、彼らは口々に謝りながら、逃げるように去って行く。
静かになった周囲には誰もいない。時折吹き込む冷たい夜風が土埃と一緒に運ばれマライカの乱れた髪をなぞる。胃のむかつきと頭痛に襲われ、毛穴から吹き出した汗のおかげで髪の一本一本が顔にべっとり張りついた。
彼は足元に地面に倒れ込み、土埃まみれになっている汚らしいマライカを視界に入れると腰を下ろした。
マライカはうつ伏せながら嘔吐きを繰り返す。自分の身がどうなるなんて、冷静に考えられる余地はない。今となってはこの恐ろしい苦痛をどうにか拭い去りたいと願うばかりだ。
「残念だったな。ここは要塞、平和な育ちのお前ごときが簡単に逃げ果せる場所ではない」
嘔吐くマライカの呼吸は荒い。そんなマライカを余所に、ファリスは低い声で淡々とそう言い放つ。
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