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Ⅴ 若き鷲の頭。
Ⅴ
外が何やら騒がしい。
夜もすっかり深くなった頃。眠りを妨げられたファリスが配下の見張り番に問い質せば、なんということだろうか。身柄を拘束した人質が逃亡したと言うではないか。
着替えもそこそこに配下の者たちが声を荒げている場所に向かえば、案の定、部下が手を上げる寸前だった。
それにしても、ハイサムは仮にも政府さえも頭を悩ます大盗賊の一味だ。そのハイサムがたった一人の人間に手こずらされるとは予想さえもしなかった。
――いや、負けん気の強さから考えれば当然といえば当然だろうか。
マライカ・オブレウス。
ファリスは、彼がこのジェルザレードに連れられた当初のことを思い出し、口元を緩ませた。
控え目で従順そうなはしばみ色をした目。しかしその目の奥に秘められた光は意思の強さが垣間見えた。
それは今日の午後。ファリスが二度目の再会を果たした当初、彼はファリスが世間を騒がす大盗賊の頭と知りながら恐れるどころか目を吊り上げ、指を噛み千切らんばかりに歯を剥き出しにして抵抗してみせた。
ファリスは、ベッドの上でぐったりと横たわる少年を見下ろした。
砂埃を被った衣服から見える素肌は赤黒く変色した打ち身の痕が複数と擦り傷。それに右のこめかみも切れたのだろう、血液が一筋流れていた。
顔の血色もけっして良いとは言えない。これではダールに金品を要求したとしても交渉はうまくいかないだろう。
気にかかるのは彼の様子だ。
部下からは2階から落ちたと報告を受けている。
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