Ⅴ 若き鷲の頭。

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 ファリスが彼を見つけた時、気を失う前にもどしていたのを思い出す。もしかすると2階から落ちた時に脳しんとうを起こしたのかもしれない。――ともすれば、然るべき医者を通して、脳しんとうが軽度のものかどうかを判断せねばならない。今、無闇に動かすのは危険すぎる。 「まったく、世話のやける人質だ……」  ファリスは水桶に布を落とし、水を湿らせる。ベッドに横たわるマライカのこめかみに付着している血液を拭ってやった。こめかみに当てた布はみるみるうちに赤く染まっていく。顔色を確認するため、頬にこびり付いた髪を払うと、長い睫毛が斜を作り、何とも言えない儚げな表情を作り出していた。  顔色が悪い。  それなのに、意識しなくとも小さな唇に視線が向いてしまう。ファリスにとってこれはよくない兆候だ。  ファリスは無防備な少年から無理矢理にも視線を引き剥がし、繊細な肌にできた傷をばい菌から守るべく、ただ機械的に手を動かし続けた。  しかしながらマライカをすぐに見つけられたのは幸いだった。  もし、もう少し駆けつけるのが遅ければさらなる危害が彼を待っていただろう。  なにせこのジェルザレードに住む人間は王族に見捨てられた者たちで成り立っている。  ただでさえ、余所者を警戒しているこの村に住む人々は、王族の膝元に居るマライカたちを敵視していた。彼がどんな目にあってもおかしくはないのだ。 (……やれやれ)  ファリスは、深いため息をついた。
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