Ⅰ 旅立ち。

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 ――そしてオメガは、彼らには発情期というものがあり、ヒート状態になればたとえ同性であってもその身に子を宿すことができる。故に、劣等種や劣悪種と呼ばれることも少なくはなかった。しかしその容姿はとても美しく、その数は数万人に一人といわれ、誰が相手でも子を宿すことが可能な故に、コレクターたちはオメガを欲するのだ。  マライカの嫁ぎ先でもあるダールは優れた性を持つアルファであり、そして彼もまた、数あるコレクターのひとりだった。  これから自分はダールの元で新しい家庭を築く。とても喜ばしい筈のそれは、けれどもマライカにとって、そうではなかった。  たしかに、ダールは大富豪と称されるだけあって裕福だという噂は後を絶たない。しかし、マライカは彼と面識はなく、どのような人柄なのかさえも深く知らない。さらに、年はふたまわりも違うと聞く。会ったことのない、しかも自分の父親と変わらない、円熟した年齢の彼の元で果たして幸福に暮らせるだろうか。  マライカの小さな胸は不安で押し潰されそうだった。  不安なあまり、夜通し泣き腫らした瞼は赤く、目も充血している。  この見窄らしい姿を見たダールが愛想を尽かせばいいのにとさえ思ってしまう。  しかし、自分に愛想を尽かされると融資の件を白紙に戻される可能性がある。そうなれば困るのは今まで自分を分け隔て無く育ててくれた両親だ。  両親はベータの性でありながら、発情期に入ればどんな相手でも子を宿してしまう厄介なオメガの性を持つマライカを、それはそれは大切に育ててくれた。  マライカが17年という年月を生きてきたこれまで、コレクターたちに何度攫われそうになったことか。
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