Ⅵ 苦痛。

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「あの、こんにちは。ターヘルと申します。どうぞよろしくお願いします」  彼は変声期もまだなのだろう少年期独特の可愛らしい声は容姿さながら、すますます少女のようだ。 「ターヘル?」  彼は何者なのだろう。  見知らぬ少年の名前を声に出しても何ひとつ思い出せない。  そして見慣れないここは、いったいどこだというのか。  マライカが眉根を寄せて少年を見つめていると、彼は口を開いた。 「ファリス様のご命令で今日からマライカ様の身の周りをお世話させていただくことになりました」  そこでマライカは、自分の身に降りかかった出来事を思い出した。  ファリス。  彼の名は忘れもしない。  大盗賊若き鷲(ハイサム)の頭。父親の積み荷を奪い、さらにはマライカを連れ去って身体を無理矢理奪っただけではなく、自分たち家族さえも脅かす憎き盗賊。  そしてこの全身の傷は夕べ盗賊から逃げるために負ったものだ。ともすれば、この包帯はハイサムが巻いたのだろう。  忌々しい。  よりによって自分を攫った奴らに介抱されるとは!  この包帯を今すぐ抜き取って葬りたい。  しかし、今の自分にはその気力さえもない。悔しさのあまり唇を噛みしめ、しっかりと腕や足に巻き付いている包帯を見下ろすマライカの表情からは苦痛が色濃く見えたのだろう。 「あの、痛みますか? 鎮痛剤をお持ちしましょうか?」  少年はけっして健康とは言い難い痛々しい様子のマライカに訊ねた。  淀みのない茶色く大きな目がマライカを覗き見る。  彼は果たして敵なのか。
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