Ⅰ 旅立ち。

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 そんな煩わしい限りの自分を、母親は優しく慈しみを以て愛情深く、父親は力強く守ってくれた。目の中に入れても痛くないというほど誰よりも可愛がり、育ててくれたのは実の両親だ。  それはダールの元へ嫁ぐことになった今の今まで、マライカの身を案じてくれたほどに……。  ではその両親がなぜマライカを手放すことになったのかといえば、そもそもの発端は父親に降りかかった大惨事が原因だった。  ――今から1週間前のことだ。王宮で働いているマライカの父親は、アブリヴィアン王直々の命により、隣国の王へ贈り物を届けるという重大な役目を仰せつかった。  明くる日、太陽もまだ昇っていない早朝、盗賊に気取られぬよう、たった数人の従者を引き連れ、物資を運んでいる時だった。いったいどこで聞きつけたのか、盗賊たちの襲撃に遭い、王の贈り物が盗まれた。  斯くして隣国の王への贈り物を奪われてしまった父親は死をも覚悟の上で王に事情を話した。  王は、自分が贈ろうとした物と同額のものを調達できれば許すとそう言ったのだが、なにせマライカの父親はベータという一般層だ。当然、王が支出するほどの財力は持ち合わせていない。  途方に暮れていた時だった。『捨てる神あれば拾う神あり』ということわざ通り、ひとりの大富豪が名乗りを上げた。  彼こそがダール本人である。  ダールの融資のおかげで父親はなんとか咎められずに済み、命を繋ぎ止めることもできたのだが、それにはひとつ条件があった。
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