マリーさん

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マリーさん

『わたし、マリー。今、あなたが住んでいるマンションの前にいるの』 「え、え? な、なに言って――」  突然かかってきた電話は、話し終える前にブツッと切れた。  マリー? 似たような名前の怪談話なら聞いたことがあるが、「マリー」というのは初耳だ。子供の悪戯だろうか? 小学生くらいの女の子の声だったし、ありえなくはない。でも、今時わざわざ……あ、またかかってきた。 「あ、あ、あの」 『わたし、マリー。今、エレベーターの前にいるの』  またも一方的に電話が切れた。おれの部屋は三階だ。この流れだと、次に電話が鳴るときはおそらく部屋の前にいるはず。今から逃げても鉢合わせする可能性が高い。それにまだ半信半疑だ。でも、もしこれが本当なら、良くない展開が待っていそうだ。ああ、電話なんか出るんじゃなかった。久々の着信だったからつい嬉しくて出てしまったけど、まるで時限爆弾を手渡された気分だ。  ん? 考えてみたら、携帯の充電すらしてなかった気が……じゃあ、あれは本物で……ああ、また着信が…… 「……もしもし?」 『わたし、マリー。今、あなたの部屋の前にいるの』  やっぱりだ。逃げるならベランダしかない。そう考えたおれは、携帯を手に、ベランダに出た。悪戦苦闘の末、なんとか下まで降り立ったちょうどそのとき、電話が鳴った。 『わたし、マリー。今、あなたの部屋に……何これクッサ! 痛っ! なんか踏んだ! もう、汚いし足の踏み場が……え、今、何か動いた……あっ、ちょ、何この部屋! いや、いやあああああああ!』  部屋を最後に掃除したのはいつだったか。引きこもり生活を始めた頃と同じくらいだと思うけど、思い出せない。確かに、あんな部屋に入ったら、おれ以外のやつは気が狂うだろうな。何しろ、得体の知れない虫がそこらじゅうにいるのだから。  少しかわいそうな気がしてきたけど……久々に吸う外の空気は思った以上に心地いい。悪いけど、もう少しこの満天の星空を少し楽しませてもらうとしよう。
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