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頭
ししおどしのような音だったという。落ちた頭が地面に転がり、それまで垂れ流されていた汚言が途絶え、辺りに妙な清涼感が広がった。
今、とある村で一人の男が斬首された。山を越えて伝わるほどの悪名。彼には生きる価値などなく、役人はもちろん、見物人も同情のかけらすらなかった。皆はただ眉をひそめ、せいせいしたと、あくびを一つ。
だが、役人がその頭を片手で持ち上げた瞬間――
「おい! 俺をどうしやがるつもりだ!」
突然、頭だけの男が叫んだ。驚いた役人は手を放し、頭は地面に落ちて「いてっ!」と声を上げ、ぎょろりと目玉を動かした。見物人たちが唖然としているのに気づくと「何見てやがんだ!」と睨み、再び悪態をつき始めた。とても死にかけとは思えない。見物人も役人も全員が言葉を失い、困惑した。
「もう一度斬るか」
「しかし、首を斬ったのだから、もう罪はないのでは……?」
「それに、斬る場所がないな。縦に真っ二つにするか」
「よせ、二つになった口が喋り出したら耐えられん。放っておけばそのうち死ぬだろう」
「あんなに元気なのに? それにしても不気味だ……」
皆が腕を組んで、話し合った結果、祠を建てて、男の頭を祀ることに決まった。祟りを恐れていたこともあったが、結局は『臭いものに蓋をする』という理屈だった。
こうして男の頭は村外れの祠に納められた。最初は物珍しさから人が訪れたものの、喋り続ける頭だけの男を気味悪がり、やがて誰も訪れなくなった。人々は忘れようと努め、時折聞こえる「おーい!」や「無視するな!」「何か持ってこい!」という声にも耳を塞ぎ、顔を背けた。
それからしばらく経ったある日、一人の男がその祠の前で立ち止まった。
「ああ……どうすればいいんだ……。このままだとうちは……」
「おい、何を悩んでいるんだ?」
「ひっ!?」
突然の声に驚いた彼は、それを神の声だと思い込んだ。彼は悩みながら歩いているうちにここまで来てしまった遠くの村の者で、この祠のことをまったく知らなかったのだ。
「ここ最近の厳しい日照りで畑が全滅しそうなんです。雨が降らなければ年貢も納められず、自分たちも飢え死にです……」
「ふむ、それは可哀そうに。よし、俺の言う通りにするんだ。まずは……」
彼は頭だけの男に従って行動した。すると、本当に雨が降り、村は救われた。
それが本当に頭だけの男の言う通りにしたからなのか、ただの偶然かはわからない。雨など、待っていればいずれ降ることもあるのだろう。しかし、「祠の神様が助けてくれた」という話は広まり、やがてあの男を捕らえた領主の耳にも届いた。
「あの男、頭だけになったとは聞いていたが、まだ生きていたのか……。それにしても神様とはな。こうしている間にも、祠に訪れる者が増えているらしいし、このまま放っておいて妙な教えを広められては困る。妻の出産の前に余計な厄介事は片付けておかなければな……」
そしてある夜、領主の命を受けた家来たちが祠に火を放った。
炎は音を立て、みるみるうちに燃え広がった。火花が蛍のように冬の夜空に昇った。澄んだ空気に遮られることなく、男の断末魔の叫び声が村中に響き渡った。これまでとは違う、その恐ろしい声に村人たちは震え上がり、耳を塞いで目を閉じて、夜空に広がる橙色の光を見ないようにした。
翌年の春、領主の妻が出産を迎えた。
「ついに我が子と対面できる。ああ、待ちきれぬ! 早く顔が見たい!」
別室でうろうろ歩きながら出産の知らせを待っていた領主だったが、その耳に届いたのは妻と女中たちの悲痛な叫び声であった。
慌てて駆けつけた領主の目に映ったのは、涙を流す妻と、その手に抱かれた赤子だった。理由は尋ねずともわかった。その赤子には胴体がなく、頭に小さな手足が生えていたのだ。
その後、祠のあった村では、胴体のある赤子が生まれることはなかった。
というのが、その村にまつわる伝承である。成長した村の子供たちは、かつての男のように悩める者に金言を授け、勢力を拡大し、やがて国の中枢にまで食い込むようになった。
ただ、本当に不思議な力があるかどうかは不明である。
一説によれば、大企業が不法投棄した汚染物質が原因で、彼らのような体の者が生まれるようになり、そして口止めのため、企業が彼らを後押ししているとか。
本当かどうかはわからない。探ろうとすれば身を焼かれるのはこちらなのだから。
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