あの子の家族が語るあの子のこと3

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あの子の家族が語るあの子のこと3

「それよりも原因はムッピなの?ムッピはユピに何かしちゃってるの!?」 「何かしたとかいうんじゃなくて、もしかしたらユピさんが元気のない時は、ムッピさんのこと考えているんじゃないかってこと」 オルミくんは答えながら、また立ち上がりかけたムッピの肩を手で押さえて、座ったままでいるように促す。 「これから言う内容は、ボクの仮説だけどきいて」 ムッピは頭を何度も上下に振り、オルミくんの言葉にうなづいた。 「ムッピさんはユピさんとはケンカしているわけではないのに、直接会えないって言っていたでしょ。わざわざ様子を知りたいと思って来たんだから、ムッピさんはユピさんのことは大切なんだよね?」 「うん。ユピはムッピの中で、この世で一番大切な子」 「ムッピさん。ユピさんもムッピさんと同じなんだよ。ムッピさんが大切で会いたいのに、会えないから辛くて悲しくなるんだ」 オルミくんは静かな口調で、言葉に強い力を宿して言った。 『ムッピ今日も来てくれて、ありがとう』 『またね、お父さんとお母さんがお手紙と一緒にお菓子を送ってくれたの。お菓子味見してとってもおいしかったから、ムッピと食べたくと取っておいたんだ。二人で食べようね。半分こしておやつに食べよ』 『ムッピはユピのところに来て、お父さんたちに怒られたりしない?遅くまでいて、叱られたりしていない?』 『ユピのために来てくれて、迷惑かけてごめんねー』 『おじい様におばあ様にお父さんもお母さんと兄姉がいっぱいいても、ユピこんなだから会いに来てくれるのムッピだけだ』 『ユピここにずっと一人でいなくちゃいけないけど、ムッピが毎日来て側にいてくれるから淋しくないよ』 『また明日。待ってるね。ムッピのこと待ってるね』 ムッピの他の家族や親族・精霊・妖精たちが住む世界とは隔離された、いまのムッピが住んでいるような外界と閉ざされた空間世界。 飛ぶ鳥たちなどいない青空、岩や石ばかりあり鮮やかな草や木がない茶色く枯れた大地。 大きな岩山に入り口を隠された地下深くにある洞窟の青い地底湖の水上の真ん中に、ポツンと小島のように存在する小山の岩。 その岩の内部に作られた石室の中で、ずっと自分一人だけで過ごしていたユピ。 暗闇がかかった洞窟は内部に生えるおびただしい数の水晶が発する青い光が、淡く星の光のように揺らめき常に夜がある世界みたいに思えた。 綿の雲クッションの上で体を休めていることが多いユピは、体内にある陽の気と陰の気との間に境目を持ち保つ機能が生まれつきなく、気の状態が影響して丈夫じゃなかった。 生き物に当たり前にある機能がない代わりなのか、ユピは感応能力が強大で周りの気の状態を自分のようにさせてしまう。 ユピの意思とは関係なしに。 生まれ持った体質と力のせいでユピが隔離された世界にあるものは、影響を受けないように全てに魂と命が宿っていない空っぽの作り物だった。 生ある者はユピだけで、真に孤独の世界だった。 ♦            ♦            ♦ ユピと双子のムッピもまた特殊で、何事の干渉も受けない「無効」の体質を持つ。だからムッピはユピといられた。 ユピにとってはムッピが、唯一会える他者だった。 ユピは決してムッピの前で、自分が置かれた環境を嘆く言葉を口にしたことはない。辛くなかったはずはない。 ムッピが忘れることのできない、隠れ見てきいたユピの涙を流す姿と己の終わりを望む言葉。 ムッピを送り出す時の、ユピの淋しそうな微笑み。 ユピはオルミくんを大事に思っている。ユピの中でムッピも、きっと大事な存在に入る。 ーユピが完全に幸せになれない原因は「ムッピ」。ムッピが会わないから、ユピをいま悲しくさせている…。 ユピには家族・血縁のある親族がたくさんいても、直接姿を見せて話せるのはムッピだけだったのだ。 本当の意味で言う家族は、ユピにはムッピのみと言えた。 もし自分がユピだとしたら、ムッピの存在は大きい。「会いたい」と思うはずー。
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