あの子の家族が語る他の家族のこと

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あの子の家族が語る他の家族のこと

ムッピはオルミくんの言ったことを、いま心の底から理解した。よく考えれば気づくことかもしれないのに、ムッピは思い至らなかった。 ユピを幸せにしたい、この世で一番大好きだと思っているくせに、ムッピがユピに不幸の種を作ってしまってたんだね。 『ごめん…ユピ』 「オルミくんの言う通りかもしれない。ムッピのせいなんだね…」 昔のことを振り返りユピとムッピの関係性の深さを再認識したムッピは、自分の鈍感さが不甲斐なくて頭を垂れる。 正しい時間枠で生まれるオルミくんの元へ向かうユピを見送ったとき、ムッピは自分が側にいられなくてもオルミくんがいるから孤独でなくなり、ユピは幸せになれると思っていた。 オルミくんはユピを元気にしたくて、でも自分が力になれないことに心を痛めるほど、ユピを深く深く想ってくれている。ユピはそんなオルミくんがいてくれることで、洞窟で暮らしていた頃よりも温もりのある毎日を送れたことは確かなんだろう。 オルミくんの他にも一緒に暮らす仲間たちがいて、ユピはもう独りぼっちじゃない。 だけどムッピがユピを恋しいのと同じで、ユピもムッピが恋しいのに会えなくて。淋しい気持ちが、ユピの心に影を落としているんだ。 「オルミくんはユピの大事な子だから、大事な子が一緒にいたらムッピはいなくても幸せになれるって…。ムッピ自分勝手だった」 ユピを幸せにしたかったのに自分のせいで幸せを完成させられないことに、目から涙がこぼれそうになる。ムッピの考えが甘かったから自業自得で、人前で感傷して泣くなんてみっともない。 眼球に力を入れ下唇を思い切り上唇で噛み、出そうな涙をこらえる。 「ムッピさん。ボクがいてもお菓子さんたちがいても、自分の大事な双子の片割れに会えないことのユピさんの淋しさは、きっと埋められないよ」 「うんー」 泣きそうになる気持ちを横にやるために、オルミくんの他の仲間についてきくことにする。 「ねえお菓子さんたちって、どんな人たちなの?」 オルミくんは胸の前で両腕を組み、目を閉じて少しの間無言になった。紹介しづらい人たちなのだろうか。 閉じていた目を開いて組んでいた腕を離すと、左手の人差し指で顔をポリポリと掻く。 「お菓子さんたちのことは、性格的に優しくて良い人たちで説明できるんだけど…」 「見かけや生態的なところがシュシュさん以外は、ちょっと独特な人たちかな…?」 ♦            ♦           ♦ ユピと暮らしているオルミくん以外の仲間たちは彼の話によると、お菓子さんは生きている?お菓子だから「お菓子さん」と呼ばれているらしい。ナッツさんは雪の精霊でネレウタラシュ世界の冬の神様が祖父にあたり、この世界では高位の存在。シュシュさんは亡くなったトゥーお姉さんの娘で、ムッピとユピには年上の姪っ子。 シュシュさんと双子であるトゥーお姉さんの息子が、オルミくんの五代前の先祖にあたるそうだ。 ―ムッピたちは特に司るものはないが、光と闇をはじめとして色々な力を全般的に使えるため「万(よろず)神」と呼ばれている。万神系統が子どもを作ると人間との子どもであっても、万神の血が濃く出れば体も能力も純血並みの神族に偏り生まれてくる。 現在200歳を越えるというシュシュさんがそうであり、父親は多少精霊の血が入っているが人間でトゥーお姉さんの血が濃く出ているから生き物としては万神側に属す。 シュシュさんの双子の兄でオルミくんの先祖であるシュヤさんは、霊力は強いが人間に近い体で生まれたらしい。シュヤさんは結婚したが相手が複雑な立場の人だったため、人間世界の欲に色々巻き込まれて早死にしたという。 シュシュさんの見た目は万神が人型の女の子である場合に、特色として出る星みたいな光の粒が混じる黒髪をまっすぐ背中まで伸ばしていて、瞳は赤い苺色をした大きな目に鋭さのある意思が強そうな美少女。 完全な神族の体に変化するための長い眠りから目覚めて兄夫婦と子孫の不幸を知り、起きてすぐにオルミくんが生まれた国に邪気をまいて滅ぼしたなど実行力と決断力のある性格らしい。 ユピとは国を滅ぼしていた際の現場で出会ったのがきっかけで、一緒に合流したそうだ。 お菓子さんは西洋地域の焼き菓子ジンジャークッキーを丸く立体的にして成人男性なみの大きさにした見た目で、内部にはおまんじゅう・ケーキ・クッキー・パン・アイス・チョコ・せんべいなど様々な種類のお菓子が詰まっている。 頭部・胴体・手足の間にはつなぎ目にムースと餅が使われて、自由自在に動かすことが可能だそうだ。 ―体の部分である五体は別々に作られて繋ぎ合わせたのか、丸ごと作って分解して繋げたのか?巨大ジンジャークッキーの生命体。…見てみないと、ちょっと姿が想像しにくい。 先の時間枠でオルミくんと知り合ったあたりからユピはお菓子作りを頑張っていたが、お菓子さんを作るためだったのかな。 お菓子さんは赤ん坊のオルミくんの誕生日プレゼントとして作られ、大きくなったら食べられる予定だったらしい。が、ユピが心を込めすぎて霊力が入ってしまったらしく、お菓子さんには魂が宿り自我が芽生えてしまった。 物を考え話せるお菓子さんを食べ物として扱うのはユピも抵抗があり、オルミくんの子育てを手伝ってもらう家族の一員に加えた。 お菓子さんは丸い目の部分と口の飾りに使われている物が、神族が多く住むとある霊山の霊玉(高い神力・霊力が結晶化した物)なので、知能がとても高くみんなの頼れる保護者的存在になっているという。 本人としてはオルミくんを祝福するために生まれてきたと考えていて、長期保存の目的でも使っている霊玉の力が尽きたら動くこともしゃべることもできなくなるだろうから、そのときが来たらみんなが自分を食べることが遺言らしい。 食事のパンなどはお菓子さんの内部にある物を口から出して、よく提供してもらっているそうだ。体内のお菓子は少し残しておけば、元の大きさに自動再生する術がかけてあるとのこと。 ナッツさんは人型をとる精霊ではなくて見た目が雪だるまにそっくりで、雪だるま的胴体に丸っとした手足がついた容姿だそうだ。雪の精霊で雪だるまに激似であるのに、物凄い冷え性で力の属性が火という相反する性質。 父親がヤシの実の精霊で南国出身のため、ナッツさんの力と体質は父親側の遺伝と思われる。ナッツさんとの母との馴れ初めは南国にいたときの風の精霊たちの大移動に巻き込まれ、遠くに飛ばされ寒い北の国に落とされた際に助けられたのがきっかけ。 雪と関係深い生き物なのに寒いのが苦手で大嫌いなナッツさんは母親と反りが合わず、母親にひどいことも言われたようで絶縁してカヌイラ島に引きこもることになった。 このカヌイラ島の持ち主は実はナッツさんで母親が立ち入れないように色々して、それを祖父神との取引材料にしてカヌイラ島を手に入れた。 穢れに憑かれ狂暴化した生き物を浄化するため北の国一帯を歩いて回り、片っ端から自分の火の力で浄めたごほうびにカヌイラ島を祖父神に作り出してもらった。そして中から結界を張って、母親も誰も島に近寄れないようにした。 オルミくんたちと暮らすようになった理由の説明はなかったが、雪の理に縁のある生き物だが逆の性質を持つので、ナッツさんは同族たちとは距離があるんだろう。 『ユピのことは任せて眠りなさい』 眠りにつく前は意識を保てなくて、ユピを送り出した後の手助けをヌシさんに託した。 ナッツさんは他者を拒む場所を求めるあたり、ユピが知られず住み暮らすための協力者に適すると見込まれたのだと思う。 ヌシさんの頼みであってもユピと家族として一緒にいてくれているから、ユピ本人をナッツさんは受け入れてくれたんだ。
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