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あの子の家族の頼み事
お菓子さん・ナッツさん・シュシュさん。詳しくこの人たちのことをきくと、灰汁が強そうな人物ばかりの気が…。
お菓子さんは自我のある生きているお菓子という以外は、3人の中で一番普通そうに感じる。
シュシュさんの起き抜けすぐに一国を滅ぼす思い切りの良さは、ムッピたち万神一族の中でもかなりの凄さだ。
他の一族の場合だと、「うーん、どうしよ。えいっやっちゃえ!」と多少は悩む。
ムッピもユピを「忌み子」といったどこかのバカ神を体から魂を引き抜いて廃人にしてやろうと本気で思ったが、ユピに嫌われると思うとできなかった。
祖父母と両親兄姉たちはユピをそんな風にいわなかったが、他の血統の神族の中には稀にユピを疎み悪くいう者もいた。
神族・精霊は相手がよほどの理由がない限り、基本的には他者を殺すことは許されていない。でもムッピはユピにひどい言葉を吐く奴は殺せるものなら殺してやりたかった。
実際にせいぜいできたことはユピの悪口をいえないように、ユピの名前を口にしかけたら喉が裂け血を吐く呪いをかけるぐらいだった。
いままで呪いをかけた相手は誰も命を落としていないのだから、喉を傷つけて痛い思いをさせたって別に問題ないだろう。ムッピも問題児扱いされるようになったが、ユピ以外には誰に嫌われようがムッピは平気なので構わなかった。
ユピと暮らす仲間たちは柔和な性格の優しい人たちではないけど、自分の心の芯が太くて心の根っこは多分温かみを含んだ人たちなんだろう。その仲間たちとオルミくんが家族になってくれていても、ユピの心は満たされず穴が開いて…。
♦ ♦ ♦
お菓子さんたちの人となりを紹介し終わって、オルミくんは「ふう」と一息ついた。
雪が降る寒い外にいるので吐息はふんわりと白い煙になり、冷たい空気の中にとけて消えていく。
「ムッピさん。お菓子さんたちのことでつけ加えておくとね、みんなユピさんをとても想っているよ。ユピさんに元気がなければ、みんなもボクみたいにユピさんを元気にしてあげたいと考えてる」
「ボクだけが、ユピさんの様子に気づいてるわけじゃないんだ。きっと他の家族だって、ユピさんが悩みを抱えているのに気づいてる。ユピさんに悲しい顔をしないでほしいから、ボクだってみんなだって色々した。だけどねボクたちが何をしても、ユピさんを完全に幸せにしてあげられないんだよ」
「ねえムッピさん。ムッピさんがユピさんと会いたいのに会えないことボクが力になって何とかなるなら、ボクもお菓子さんたちだって何だってするよ。お願い、ムッピさん」
「ユピさんに会ってあげて…!」
張り裂けるような気持がこもった声を上げたオルミくんが、ムッピに手で瞳ですがってくる。
ムッピの肩をつかんで、泣きそうな目をして強く見つめる。
オルミくんのその目を見返すと、胸の奥が痛むようにうずいた。
『ユピの幸せを願っているのに、逆に辛い気持ちにさせて』
『幸せにしたいと口にしながら、ユピに自分がしたことを知られたくない臆病者』
『ここまで来て、ユピと顔を合わせる勇気がない卑怯者』
ムッピがムッピを責め罵る言葉が、頭の中いっぱいに響き渡る。
後ろめたくてまっすぐオルミくんを見れなくなったムッピは、目の焦点を無意識に下へとずらしてしまった。
「ムッピさんがユピさんのことをこの世で一番大切だって思っているのと同じで、ボクにとってだってユピさんはこの世で誰より大切なんだ。ユピさんだけがボクを望んでくれたんだよ」
「ボクの母親だった人はお腹にいたボクに『アナタは生まれない方が幸せなのに』『生まれたら不幸になるだけ』『生まれるべきじゃない』って。そんなことばかり話しかけてた。自分の子どもだけど生むことを拒んでいたよ。小さい頃の思い出は憶えていないものが多いのに、生まれる前の母親の言葉は嫌だけどいまでもはっきり記憶に残ってる」
「ユピさんと赤ん坊だったボクが最初に出会ったときだけど、ボクは母親に殺されそうだった。そのときの記憶もあるよ。結局望まない子どもを生んだ母親はボクを刃物で刺そうとして、ユピさんが止めに入ってできなかった。ボクに向けていた刃物を自分に刺して、母親だった人は死んだ。泣いているボクをユピさんは抱いて、『生きていて良かった』っていってくれた」
「ボクはユピさんがいなかったら生きられなかったし、母親がいっていた通りに幸せになれなかったよ。ユピさんが一緒にいてくれたから、生んだ人に認められなくても生まれて良かったと思えた。大事なユピさんが泣くのも悲しいのも嫌だ!ムッピさんだってそうでしょ!?」
「ユピさんを想ってくれているんだったら、お願い会ってよムッピさん!!ユピさんを幸せにしてあげて…!!」
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