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願いのために差し出した物は2
「ユピを悲しませるって、ムッピだって分かってたよ。分かってたけど他にどうにもできなかった」
どうすれば良かったの。ムッピは何をするのがユピのためになったの。
もう分からない、頭の中がグルグルするだけで分からない。
「ユピにどう会えば良いの。悲しませないで顔を合わせるには、どうすればできるの?」
「教えてよオルミくんっ。ムッピは一体何をしてあげれば良かったの…!」
オルミくんは感情の痛みを宿した目をしてムッピを見て、ムッピの体を自分の元へと抱き寄せた。
雪が降り低くなっている気温のせいで冷えた手が、ムッピの頭をそっと包む。
冷え切った手に温もりはないのにムッピには温かく感じられて、胸が詰まり苦しくなって声を上げて泣いた。
「大丈夫。絶対力になるから。何とかするから」
オルミくんがムッピに言いきかせるように、何度も耳元で囁く。
ユピのことでムッピの力になってくれる人は、ヌシさん以外にいなかった。
周りに影響を及ぼすユピの力はユピのせいではないのに害で、お父さんたちより力がある源の神でもどうにもできなくて、ユピを生かすには外界と切り離して閉じ込めるしかなかった。
愛しく可愛い子ではあっても、その子のために多大な犠牲を出すことは許されない。
ムッピの他の家族だってユピを好きで、何とかしてあげたいと思っていた。みんなは心を抑えて離れてユピを見守るしかなかった。
ムッピはユピと一緒にこの世に宿りユピが母胎から出されるまで、ずっと2人でいた。
薄暗いお母さんのお腹の中は少し怖かったけど、ユピといるから平気だった。
一緒に生まれ出る前に強い力で体を包まれ母胎の外に出されたときの、ユピの発した小さな悲鳴。
ムッピは未完成の小さな手を伸ばしたが、その手はユピに届かなかった。
ムッピは胎児時代の記憶から、ユピを外に出して自由にしてあげたい想いを抑えるなんてできなくて。
諦められなくて色々と方法を探していた際に、トゥーお姉さんよりもずっと昔に亡くなった兄姉の遺した日記を見つけた。
日記に書かれた内容を読んで魂に関する願いを叶えるには、自分の魂を代償にする方法があることを知った。
日記は他者には知られたくない物をしまうないしょ箱のように、ヌシさんが使っている空間に隠されていた。
日記の持ち主であるムッピの兄姉は、魂の消失と周りから忘れられることを代償に何かをしたらしく、ヌシさんしか憶えていない存在だった。
ヌシさんから方法について詳しく教えてもらい試そうか考えていたとき、ユピが望んでいることを明かされて実行する決意をした。
♦ ♦ ♦
ムッピが代償を出せばユピの体はなくなっても、独りぼっちの世界から出て行き望みを叶えることができる。
魂が手元からなくなるだけ、ムッピを知る人がいなくなるだけ。
ムッピだけはユピを何とかしてあげることを諦めたくなくて、代償がどれだけ大きかろうと構わなかった。
本当はみんなの記憶からいなくなることの半分は、自分がそうしたかったのかもしれない。
祖父母と両親に大勢の他者のことよりも、血を分けたユピの方を選んでほしかった。
悲しい運命を背負うと分かっていて現世に送り出したのなら、何があってもユピの力になってあげてもらいたかった。
ムッピは子どもで責務を持たない立場だから、無責任にこんなことを言える。お父さんもお母さんも辛くて苦しいのは分かっているけど。
ユピのことはもうどうにもしてやれないとみんなが思っているように感じて、ムッピは家族・親族全てに失望し心のどこかで怒りを抱いていた。
『ユピの力になってくれないなら、みんなみんなムッピはいらない』
ムッピの存在が消えて生みの親に生んだことを忘れられても、ムッピはそれでも良いと感じる部分が確かにあった。
オルミくんがムッピのしたことを知っても力になると言ってくれたことが、ムッピはとても嬉しかった。
ユピのためにムッピに協力してくれる人なんて、ヌシさんだけで誰もいないって思っていたから。
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