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起きて考えるのはあの子のいま
ドシン!ゴロン。
「……痛い」
体が地面にドシンと落ちて衝撃の反動でゴロンと体が転がったせいで、顔面・全身に痛みが走り目がさめた。
目が開いて意識もあるけれども、頭の中はまだ眠って動かない。
なので、眠い。まぶたが重くて、半目状態である。
口を大きくパッカリ開けて、「ぷわあー」とあくびをした。
まだまだ、眠い。まあ、仕方ない。
ムッピが眠りに入る前にしたことはムッピの心身をかなり疲れさせるから、長い休養が必要になるって言われていたし。
多分ムッピは、かなり長い時間寝ていたんだろうけど、体がもう少し回復のために眠りを要求しているんだろうな。
転がったうつ伏せ状態の体勢のまま、自分が寝ていて落ちた雲クッションの横を芋虫のようにはって通る。
雲クッションは巨大なワタの固まりで、ムッピはそう呼んでいる。
起き上がって歩くのが、起きぬけのムッピには面倒。
手足をノンビリ動かしてはい、小川の方へと向かう。
ついたら無色透明な水の中へ飛び込み、顔と体をザブザブ洗う。眠けまなこの目玉は、特に念入りに…。
「ふう、サッパリ。きれいきれい」
小川の中から川岸に上がり、濡れた全身の毛を風を呼び乾かす。
川の水は冷たく、それで洗ったので、頭も多少シャキンと目ざめた。
♦ ♦ ♦
川の水面に、ムッピの姿が映る。
モコモコフワフワの黒い体毛。小さい耳と鼻の穴が毛に隠れて、真ん丸に見える頭。
真ん丸目玉に、まぶたが少しやる気なさげに下りて、タレ目に見える琥珀色みたいな濃茶?金茶?の瞳。
小動物のぬいぐるみみたいな顔立ち。
眠りにつく前と変わらない姿だ。
体の大きさも人間の乳児より少し大きい程度で、前もそうだから成長していないようだ。
こんなだらしない体洗い、他の人が見たらあきれるだろう。
この空間には、ムッピ本人しかいないから、問題ないけども。
サラサラ静かに流れる小川。その川の先が、どこに続いているのかは分からない。
上には、白い雲がまばらにある青空が広がる。
その空の果てが、どうなっているかも分からない。
空と地上はある程度創られた状態で、ムッピに手渡されたから。
小さな世界の創造は、ムッピ自身はあまりしていない。
地面はムッピの好きなタンポポ。
ピンク・白・黄・紫と色とりどりにした、タンポポの花ばかりが咲く野原が広がる。
タンポポ野原だけは、ムッピが考えて形作った。
そこにさっきの小川と、木の板で作った茶色の小さい橋。
橋のたもとには葉がたっぷり生い茂り、輪郭が丸くなっている巨大な樹が一本ある。
樹の根がはるところに、ムッピの隠れ家の丸太小屋もある。
ここはムッピのためだけに創られた、ムッピだけがいる小さな世界だ。
でも草にも花にも、水にも樹にも魂は宿っていない。
ムッピ以外には、命を持つ者は存在しない。
偽物ばかりがある、作り物のがらんどうな場所。
ーユピ。眠っている間に、あの子の夢を見た。
ムッピが長い眠りについて、いまどれくらいの時間が過ぎた?
最後に会ってから、ユピはどう過ごしているのかな。
ねえ、ユピはいま幸せ?幸せになれた?
知りたいな。ユピの幸せな姿を見てみたい。
…そうだ!ムッピが直接会いに行くのはダメだけど、こっそりユピの様子を確かめに行こう。
自分と双子のユピを、気づかれないように見に行くことにした。
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