ひいひい祖父母のヌシさん1

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ひいひい祖父母のヌシさん1

さてムッピがユピの様子を見に行くには、この空間から出なくてはいけないわけだから。 「…ヌシさんに力を借りるしかないな」 ヌシさんは、正しくは「主」さん。 世界の集合体で、世界そのものである主さん。 ヌシさんの中には数多くの世界が内包されていて、ムッピを含めた全ての生き物はヌシさんの体内で生きているのだ。 ヌシさんは生き物?と言っていいのか分からないけれど、生き物の中で最初に自我を持ち生まれた存在らしい。 無の中にあってヌシさんはある日突然に自我が芽生えて、自分の意識を持つようになった。 無の空間にヌシさんは空と海を創り、次に男女の性別を合わせ持つ美しい人型の「源の神」を生み出した。 源の神がムッピのひい祖父母で、源の神はヌシさんが親にあたるから、ヌシさんはムッピのご先祖。 直系子孫の中でも、ヌシさんは特にムッピとユピをかわいがってくれた。 なので、ちょっとムッピに甘く、お願い事をよくきいてくれる。 ユピを助けるための手助けも、ヌシさんはしてくれた。 ムッピがいまいる隠れ家空間の基礎も創って用意してくれたし、他からムッピの存在が分からないようにもしてくれているし。 ムッピはヌシさんに、迷惑をかけまくっている。 眠る前に「今後はなるべくヌシさんに頼らないぞ!」と、力こぶしを作り決意を高らかにしたけどー。 同じ世界内にいない相手の気を探知して探したり、違う世界側にいる相手を力で視る初歩的な使い方がムッピは苦手だった。 自力でユピがいまいる世界や、住んでいる場所や様子を調べられない…。 ごめんなさい、ヌシさん。また、力を貸してください。 「ヌシさーん、ムッピです。ユピのことを見に行きたいんです!こっそり!」 「ごめんなさいっ、ユピがいまいる場所を教えてくださーい!!」 両手の中指と親指をくっつけて丸の形にして口元を囲み、声が通りやすいようにして大きな声でヌシさんに呼びかける。 ヌシさんへ届きやすいように、顔も目線も声も青空へ向けた。 少しするとゆるく風が吹いてきて樹の葉や草花がそよぎ、ムッピの黒毛もフワフワゆれた。空間の気が、ユラリとうごめく気配。 ヌシさんが、ムッピに応えてくれた。 ♦         ♦          ♦ 『おはよう、ムッピ』 青空から、中性的な美しい声が響く。 やや低めの、優しく穏やかなヌシさんの声。 久しぶりな気がする。 久しぶりかもしれない。 「おはようっ。ヌシさん。ムッピの声をきいてくれて、ありがとう」 『キミの元気な様子を、また見れて嬉しいよ』 『ムッピが眠りについたときは、心身ともに力を消費して衰弱していたからね。キミが無事に目覚めるのか、ワタシでもあのときは自信が持てなかった』 『本当に、また会えて…よかった』 ヌシさんが、しんみりと言う。 ムッピのしたことがどれほどの心労をかけたのかが、言葉の沈み具合で痛感できた。 ヌシさん…。 ムッピなんかを心配してくれて、ありがとう。 そして…。また困らせることに…なるかもしれない予感が。 本当に迷惑な玄孫で、申し訳なさすぎる。 「ヌシさん…ごめんなさい」 「ムッピも起きて、またヌシさんに会えて嬉しかった」 『ーそうか』 「ヌシさん。ムッピね、ユピにも…」 「ユピに直接会うのはムッピできないけど、いま幸せになれたか確かめたいの」 「お願い、どこにいまユピがいるのか、教えてください」 青空の最果てよりも先を見つめるように、ムッピは両目の焦点を姿のないヌシさんへと絞る。 ヌシさんは、特定の姿を持たない存在。 言うなればヌシさんの肉体とは、ムッピのいる空間を含めた世界その全てがそうだ。 ユピがいま暮らす場所がある世界も、ヌシさんの体の一部。 だからヌシさんには、ユピのいる場所が分かる。
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