あの子がいま住む場所

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あの子がいま住む場所

ヌシさんが繋げてくれた入り口の中を通り抜けると、向こう側の世界は常春っぽいムッピの居住空間とは真逆の雪がちらつく寒々しい光景が広がっていた。 地面も一面雪が積もり、木々も白銀に染まっている。 空は灰がかった白でくもり空だ。どこもかしこも銀世界で、うらさびしい。 いま自分がいる周りを見渡すと、前方には少し遠くに小山がいくつか連なって見える。 後方には斜面の下に岬があり、その先には雪氷が浮かぶ海が見える。 現在位置は、盛り上がった丘の真ん中部分のようだ。 小山たちも背の小さいもので、人間の子どもだって楽々登れるだろう。 山の中では極小?だと思う。 上から全体を見ていないけど山の大きさなどの雰囲気から判断して、ヌシさんの言うようにカヌイラはけっこう小さい島みたいだ。 キョロキョロと周りをもっとよく見ると、岡野上に壁なしの柱に中央が尖った形の屋根がついているだけの建物が見えた。 あれは形状からすると、庭園などに造られていることが多い東屋だ。 あそこで少し雪宿りをして、段取りを考えようか。 そう思って雪の上を結界で覆われた絶対に濡れない仕様のくつ下を履いた足で、サクサク音を出しながら歩いて丘の上に登っていく。 東屋についたら、ユピの気を探してみる。 同じ世界で同じ小島の中にいるのなら、気から探し物をするのが苦手なムッピでも探れる。居場所が分かったら、距離のある位置から様子を見る。 それで…もし、いまユピが幸せでなかったら。 ムッピを幸せにするために、どうすればいい? どうしたらいい? ゴツンと、自分の頭を叩く。 やめよう、悪い方向に考えるのは。 ムッピは頭の中を紛らわすために、ヌシさんにもらった首飾りを右手で握りしめた。 ♦         ♦          ♦ さあ、もうすぐ到着だ。 『…!』 東屋について中に入ろうとして、ムッピの足は入り口の手前で止まった。 東屋の中には、先客がいたのだ。 先客は人間の子どもで四方の柱の間に備えつけられた木のベンチに、両ひざを抱えて座っている。 顔がひざで隠れているが、目元を見るに優しそうな大きな目で、きれいかかわいいと推測できる。 色白で髪は金茶色…。 金茶色の髪の一本一本には、星の光粒みたいな光沢がある。 ームッピの親族は人型の姿になったり元々が人型で生まれると、髪にお星様のような光を含む。 男の子だと金茶色で、女の子だと黒色系統が多い。 あの子ども、もしや親族の子? もしかして、ユピが人型になって生んだ? いろいろ気になるけど、あの子ども生気がやけに淀んでいる。 両ひざを抱えて座っていること自体で、落ち込んでいそうな姿に見えるし。 何か、妙にあの子のことが心にひっかかる。 親類にあたる子どもかもしれないしな。 ムッピは、でも、他人に関わるべきではない立場にいる…。 どうしよう。 『うーん』 心の中でうなり、ふと名案がひらめいた。 ムッピは催眠術が、なぜか得意だ。それを使えばいい。 事情をきいてみよう。 で、きいた後にあの子に催眠術をかけて、記憶を消させてもらおう。 お悩み解決に手助けできればして、次に目的のユピだ。 あの子はムッピと関係が深い子かもしれないしユピが親の可能性があるし、ほっとくと後味が悪い。 ユピと関係がある子なら、ユピについてきくことができるかな? ムッピは子どもにムッピが見えるように、自分から声をかけた。 声を出せば干渉することになるので、首飾りの効力が相手になくなるんだったよね。 「そこにいる子、ちょっといいかね」 子どもは声をきいて、とまどいの表情を浮かべ顔を上げた。 『少年かな?』 かわいい系きれいな顔立ちだが、雰囲気に男の子っぽさがある。 子どもは顔を右、横と動かし、周りを見回した。 「こっちこっち」と手を上げて、東屋の入り口にいると呼びかける。 子どもは、ムッピの方を見た。 …どうしたのか?顔の表情が、今度は驚きの表情に変わっていくぞ。 耳なし鼻なしの珍妙小動物だと思ってる? それともムッピが顔真ん丸で、びっくりした? 「えっ、ユ…」 「ワっ」 子どもは何かを言いかけたところで体を前のめりにしてしまい、ペンチから転がり落ちた!
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