いまのあの子の家族1

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いまのあの子の家族1

落ちた子どもは「うぅ…」と言ったきり、動かなくなってしまった。 「ちょっ大丈夫!?」 慌てて、子どもの側に駆けよる。 子どもの体を仰向けに起こすと、子どもは目を閉じ意識はないが息はある。 頭を強く打ってのびたようだ。 「ほい」 気合いを入れて風の力を使い、子どもの体をベンチの上に寝かせる。 頭に「痛いの飛んでけ」、体にも「痛いの飛んでけ」と治癒の術をかけておく。 目覚めるまで隣にいて、見守ることにした。 昔ムッピも、よくこの子みたいな落ち方をしたことがある。 「やっぱり、血縁かなあ」 気絶している子どもとムッピとの間に、血の繋がりがありそうな確信がさらに高まった。 ♦         ♦          ♦ 頭を打って気絶した子どもは、すぐに意識が戻るかと思ったら中々起きない。 こういう場合は無理に起こすと、あまり良くない気がする。 暇なのでくつ下を脱ぎ、寝ている子どもの足近くのベンチに座り、子どもを観察することにした。 子どもの服は、いろんな世界の極東地域で切る人が多い着物調だ。 ひざまでの丈がある上衣は渋茶色で、お腹の部分で黒帯を結んでいる。 襟と袖元と裾が黒布でふちどられていて、そこに蔦柄の銀糸の刺繍がされている。 上衣の下には、長い紺色のズボンを履いてる。 足の靴は何かの皮でできているものらしく、雪の中を歩いても濡れにくそうだ。 体の大きさから見て、8~10才くらいだと思う。 雪があるのに、これだけじゃ寒くないかな? ムッピは自分の首を見て、巻いていた緑色のマフラーを外し子どものお腹の上にかけた。 東屋の外に降る淡雪が、ハラリと子どもの金茶の髪に落ちる。 手を伸ばして、子どもの髪についた雪をはらう。 髪はつややかで、柔らかい感触がした。 おでこの中央あたりで左右に分かれて前髪、後ろの髪は肩にかかるくらい。 この子は肌色が白くて顔の彫りも深いけど、西洋系と東洋系の人間の血が混ざっている感じがする。 ムッピの血族は、風変わりな小動物的姿で生まれることが多い。 人型に進化すると、人間でいう東と西の人種が混血したような容姿になる。 この子どもみたいに。 目は何色なのかな?開いているときに、よく見てなかった。 「ん…」 子どもが、小声でうなる。そろそろ目覚めるか。 子どもは少し眉間にしわを寄せながら、ゆっくりと瞼を上げた。 その下から現れた瞳の色は…、黒に青銀が混ざった不思議な色だった。 ♦         ♦          ♦ 子どもは上体を起こし、ボンヤリとムッピを見つめた。 「ユピさん…じゃない…」 少し高い男の子の呟き声が、小さく血色のいい唇からきこえてくる。 この子どもはムッピの予想が大当たりして、性別は少女ではなく少年だ。 ムッピの姿を目にした少年は、ユピの名前を口にした。 やっぱりユピの子…? 「ユピじゃない、自分はムッピ」 「ムッピ…さん?ボク転がって頭を打ったの覚えてるけど…、助けてくれたの?」 「うん、寝かせて体は治しておいた。大丈夫?」 「そうか…。ありがとうございます。どこも痛くない」 「…」 ムッピと少年はお互いに顔を見合わせ、しばし無言で視線を交わし続ける。 それぞれ相手に、何かききたいことがあると伝わり合う視線だ。 風の音一つしないシンシンと、雪が降るだけの静かな空間。 ムッピは少し重みを感じる口を動かし、少年へと問いかける。 「キミはユピを、知っているんだよね」 少年は、小さくうなづいた。 「ユピさんは…ボクの家族」 家族、そうなるとー。 「キミ、ユピの子ども?ユピが生んだ!?」 「何を言い出すの!?ユピさんはボクの養い親で血縁もあるらしいけど、ボクはユピさんから生まれてないよっ」 「オムツも履いてる赤ちゃんみたいに小さいユピさんが、どうやってボクをお腹から出すのさ」 ムッピの発言に少年は驚き、加えて呆れ声も出してきた。 ムッピの甥っ子姪っ子で小動物的姿で生まれて人型に変わらず育った子の中には、ムッピくらいの大きさで子どもを生むのもいるんだぞ。 人型の赤ん坊だって生むんだぞ。 人型で生まれてくる赤ん坊は、すごい小っちゃいけどな。 ムッピの大きさで番になる場合だと、番う相手もほとんど小さいからな。 「別にムッピやユピだって、人型の子を生もうとすればできるさ。人型の子だって、生まれたてはおチビさんじゃん」 「え…?謎だ」
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