4人が本棚に入れています
本棚に追加
いまのあの子の家族2
首を傾げて不思議がる少年を、ムッピは再度観察して考える。
この子は、ユピを養い親だと話した。
少年はユピの養子。ムッピたちとも血縁がある。
『少年は、ユピの大事な子では?』
ーユピが幽閉されていた場所からの解放を望んだ理由は、殺される運命の大事な子を救いたかったからー
こっそり隠れて訪ねるムッピ以外とは他者に会うことができず、外に出ることは決して許されないユピは夢見の力でいろいろな世界を見ることを楽しみとしていた。
ユピはたくさんの世界を夢で見る中で、時空に歪みを見つけ先の時間軸の世界を覗き込み、その世界で肉体を離れて幽体になりさ迷う少年を見かけ交流を持つようになった。
少年は複雑な生い立ちと立場にあり、ユピと同じように生まれたときから閉じ込められて孤独に育った。
周りの人間たちの欲のために生かされ思考を保てない薬で肉体の自我を奪われた少年は、心を守るために幽体を体から切り離し過ごしていた。
ユピは少年の境遇に胸を痛め、少年がトゥーお姉さんの子孫だと知ってより気にかけるようになり、ユピの心の中で少年の存在は大きくなっていった。
お互いに心の痛みを抱えていることから、ユピは少年に心を傾け少年もユピに心を許し、二人の間には強い絆が結ばれていったんだろう。
少年はユピにとって大事な子となり、ユピは彼が命を奪われないように助けたいと、生まれて初めて「願った」。
自分が守り少年の未来を変えたいとユピは思い、周囲にいる者の陰陽の気を狂わす力を持つ病弱な肉体を捨てて、これから生まれてくる少年の元へと向かった。
♦ ♦ ♦
ユピの大事な子は、「オルミ」だという名前だときいた。
目の前にいる少年がムッピとも血の繋がりがあるなら、近い血縁として彼はムッピの兄姉の子孫である。
さらにユピが養い親ということは歪みのない現在の時間軸で生まれた大事な子が、この子どもではないだろうか?
そうなのだとしたら、本人にきいて確かめておいた方が良いよね。
「あのー、キミのお名前きいてなかったけど、もしかしてオルミくんてお名前?」
「ボクの名前はオルミだけど…。ムッピさん何で知っているの?」
ムッピたちの生態に首を傾げていた少年、お名前オルミくんは、またまた首を傾げた。
「まあムッピは不思議系生物に入るので、ピンと勘が働いたんで…。気にしないで」
オルミくんの黒青銀色の瞳はムッピに納得していないようで、「追究したい」感を含んでムッピを瞬きせずに見てくる。
はぐらかした者勝ちだ。
ムッピは顔を横に背けて、「勘が良いから、不思議生物は」とブツブツ口で繰り返し唱えた。
東屋の外で降る雪と白一色の周りの景色に、視界を集中だ。
積もった雪を見てると、かき氷が食べたい。
隠れ家に帰ったら食べよう。
オルミくんはムッピが彼の名前を言い当てたことに、「勘じゃないでしょ」と疑惑を抱きながらも、ムッピの言い分にのみ込まれることにしたようだ。
向けられる視線にキツさがなくなったので、顔をまたオルミくんを真正面に見る形に戻す。眉尻が少し下がった困り顔が、視界の中に入ってくる。
顔がキレイ系だとすごく表情を崩さなきゃ、困り顔になってもイイ顔のままだ。
オルミくんがユピの大事な子だったのか。
この世界ネレウタラシュで番を作って一生を送ったトゥーお姉さんは、オルミくんと顔が似ているところがあったのかな。
トゥーお姉さんは、幸せだった?
ートゥーお姉さんはもう亡くなっているから、幸せでいたか考えても答えは分からないね。
いまムッピが重視しなくてはいけないのは、ユピが幸せかの確認だ。
ちょうどよくムッピは、ユピの現在を知る重要人物と出会えた。
オルミくんに教えてもらおう。
最初のコメントを投稿しよう!