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「これは時間がかかりそうだ。直るまでの見込みは早くて1週間って所だ。」
「わかりました。」
一週間。愛用しているものと離れるのは少々さみしくなるが仕事に支障を出さないためにも必要な期間だと考えた。
「なんかいいのあった?」
「うーん。これとかどんなだろーって思ってる。」
カウンターを離れて店の中を徘徊してる梓豪のところに行くとじっくりナイフを見ていた。そして一つのナイフを手に取って左腕の袖をまくってそれで切り付けてみた。
「見た目に反して切れ味いいな。」
確かにナイフにしては厳つい見た目をしており、一見すると切れないように見えてしまうが切れた左腕のおかげでその予想は見事覆された。
「おい、切りすぎじゃね?」
「確かに。ねーてんちょー。ガーゼ持ってきてー」
「まーたやらかしたのかお前。しかも、新作のナイフで切っちまうとは……しっかりお代は頂戴するぞ。」
「はーい。」
店主はウイスキーの入ったボトルから手を放し、ガーゼを求めて店の奥に入っていた。
「ほんとに切りすぎた。」
「自業自得だ。でも、切れ味は申し分ないほどいいな。」
赤に黒が少し混じった液体はとどまることを知らずに下へ下へと垂れていく。重力に従って落ちた先はフローリングの床の上でどんどん赤が広がっていた。
「おい、今度店の床に血ぃたらしたら出禁にするぞ。」
「すんません……試し切りする物がなくて。」
「今度から試すもの置いておくから。」
店主はなんやかんや言いながら優しく切れた腕を消毒し、包帯を巻きつけた。
「じゃあ、これ買うわ。俊煕も買うんだろ?」
「ああ。そうだったな。これ、二本で。」
「ナイフ二本と修理代で12万な。毎度アリ。」
梓豪の手当を終わらせてちゃっかり領収書をつけてきた店主は来店時よりも機嫌が良かった。きっと客が来てうれしかったのだろうと俊煕は予想する。
「早く払いやがれ。」
「はいはい。」
口は悪いが口調が穏やかになったおかげで少しだけ親しみやすくなった。
「現金で。」
そういって財布から12枚の紙幣を出して商品を買い取った。一つは生身のまま、もう一つは高く見える箱に入れて持って帰らされた。
「終わったら連絡する。」
店を出る間際に店主からそういわれ「ああ、そういえば直しに来たんだった」と思い出した俊煕だった。
「ほい、3万。」
「は?なんで?」
「さっき立て替えただろ。だからそれのお返し。」
「いや、3万でいい。俺の銃の修理代も入ってるし。」
「じゃあ3万返して。」
銃の修理費で6万は安い方だと思う。自分の落ち度でパレルを打たれ、銃としての機能を破壊された。本当は新しいのを買った方がいいのはわかっているが使い慣れた物を手放したくないのと、愛着が湧いた所為でどうにも変えられないでいた。
「俊煕?どうしたぼーとして。」
「いや、何でもない。」
「そっか。あのさ、提案なんだけど、今回の依頼に関係していた黒鉄について調べてみてもいいか?」
「ああ。調べないといけないな。まだ実行までに時間はあるだろ。そのうちに調べよう。期限は……余裕をもって20日といったところか。」
「だな。」
Aから言われた実行日は今から数えて約2か月後。実行日に時間があるということはしっかり準備をしないと命の保証はない事を意味していた。
「とにかく、いったん家帰るか」
「だな。運転は引き続き俺がやるよ。」
「頼んだ。」
荷物を後ろに置いたのを確認して車を走らせる。路地裏ということもあってなかなか出ずらいが、車体を傷つけないように下がれば後は真っ直ぐ道なりに進むだけで表通りに出られる仕組みになっていた。
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