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♪ピピッピピッ
聞きなれた音と共に俊煕はその場から体を起こした。
「いってぇ……なんで俺こんなとこで寝てんだ?」
目覚ましを止めるために起き上がった俊煕だったが何故か体がバキバキと音を立てていた。本人はおかしいと思いつついまだなり続けているアラームをやっとこさ止めた。
「腰痛い。あれ、俺、昨日梓豪とヤったっけ?」
残念ながら彼に昨日の記憶はなかった。脳のタスクが余計なものとして処理してしまったのだ。
「おーい、梓豪。起きろー朝だぞー」
「……ううー……あと、ちょっと。あと5分だけ……」
完璧にベットと一体化してしまった先輩は仕事を完璧にこなすようには見えなかった。むしろだらしないように見える。
「あと5分だけな。ホントは寝かせてやりたいんだけどな……。今日は生憎の報告日なんだ。だから早く起きてくれー」
「…………そんなの後でいいじゃん」
眠すぎて目が開いていないのと、呂律が回っていないのとで何を言っているか半分以上わからなかったが取り合えず眠たいという事だけはわかった。
「じゃあ飯できるまで寝てていいぞ。」
「んー。」
もはや起きる気がない相方をよそに俊煕は洗面所に向かった。
自室が涼しかったせいもあって廊下が余計に熱く感じる。
「はぁ……」
洗面所についたはいいが、さっきから体調があまりにもすぐれない。しかしどれだけ体調が悪かろうと、けがをしていようと上層部はお構いなしに報告の命令を出してくる。
報告を終えたらすぐに次の仕事、また報告。休む暇なんてそんなものはとうの昔になくなった。本当はあまり仕事なんて回ってこない方が絶対いいのに。どうしてこうなってしまったんだろう。
「取り敢えず……飯作るか。」
朝から憂鬱な気分になってもしかたない。気持ちをしっかり切り替えなければと思うのにどうにも私情が挟まってうまく感情が切り替えられない。こんなことでは示しがつかない。そう思って俊煕は自分の方を気合を入れるつもりで軽く叩いた。
「やばい。飯の材料がない。」
洗面所から出て冷蔵庫の中を除いた。案の定何もなかった。携帯用の保存食はあるものの、私生活で食べるものがすべてからになっていた。
「さて、一体何を作ったかな。」
二日前の記憶を遡るも全く記憶に残っていない。むしろ、そこだけ切り取られたかのように記憶が抜け落ちていた。
「おはよー。」
「あ、おはよ。あのさ梓豪。二日前って俺、なんか作ったっけ?」
「いいや?俊煕は何も作ってないよ。俺が疲れ果てたお前の代わりに鍋作ったら全部使いきっちゃった。」
今俊煕の脳内ですべての点と点がつながった。
(こいつの所為だ。こいつの所為で俺は二日前の夕飯の時の記憶だけが無いんだ……)
「どうかしたの?」
「いや、ちょっとな。まぁ、とりあえず顔、洗ってきなよ。」
寝ぼけ眼の先輩を睨みつけないように引きつった笑顔で洗顔を促した。
「わかった。」
見た目通り素直な反応を見せた梓豪は洗面所に向かった。その間に俊煕は心の中で怒りをためていた。
(いや、なぜ俺は梓豪に飯を作らせたんだ。アイツに飯を作らせちゃ身が持たないってわかってたはずなのに……!)
俊煕の心の中は二日前の自分に対する怒りと相方に対する失念と呆れでいっぱいだった。それもそのはず。なぜなら梓豪の料理は食べた者を失神させ、その記憶を奪うほどに料理が壊滅的にヘタクソだからだ。もし仮に二日前、俊煕が梓豪の飯を口に含んだらすべての辻褄があう。
「俊煕~着替え貸して~」
「わかった。これでいいか?」
洗面所から出てきた先輩は着替えを貸せと要求してきた。この時俊煕は「コイツほんとに俺の先輩なのか?もしかして新種の宇宙人なんじゃ……」と疑い始めた。あまりにも自由すぎる。長年一緒にいてももう少し遠慮が垣間見えるはずなのだが……。しかし俊熙はこの生命体について考えるのをやめた。さっさとかして朝飯を食べよう。現実から目を背けることで少しでも頭を休めたかった。
「うん。ありがとー」
「あのさ、梓豪。今日の朝飯は外で食わないか?」
のんびり着替え始めた相方を呆れた眼差しで見てしまう哀れな片方は不可抗力という形で朝飯の誘いを提案した。いつの間にか不調を訴えていた体は回復した。
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