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「さて、飯も食ったことだしそろそろ辛気臭い連中にでも挨拶に行こうじゃないか。」
「だな。」
久しぶりの飯は空腹に嫌というほど染みた。やはり人間は三食ちゃんと食うことが大切だなと二人は改めて思った。
「これから着替えるのだりー」
「それなー。つーかうちの界隈、クールビズの思考とかないわけ?ただでさえくっそあちぃ地下になんて本部建てやがって……」
店を出た後、これから真夏の炎天下の中、スーツを着ないといけないという事実に二人は嫌気をさしていた。涼しい室内ならましも本部は熱気が蒸し返したコンクリート舗装の密室。外界とは比べ物にならないぐらい暑く、異質な雰囲気のせいで余計に居心地が悪い場所になっている。
「あるわけないじゃん。アイツら季節感覚バグってるし。まぁ、中には半袖の奴とかも時々いるけど少ねえし。」
「だよなー」
「まぁ、とにかく早く行って早く帰ろうぜ。あんなところに長くいると気が狂いそうになる。」
「だな。」
なんやかんや愚痴っている間に自宅につきカギを開ける。
ガチャ
「ただいまー」
誰もいない空間に挨拶をしてる先輩に悩みなんて無縁そうだとやはり思ってしまう俊煕がいた。
ピロンッ
「あ、上層部からだ。」
「なんて言われてるー?」
スマホの着信音と共に電波に送られてきたのは上層部のお小言で『早く来やがれ。』という内容だった。
「上からのお小言。」
「まじか。そのために送ってきたのかと思うと案外上層部って暇なのかもしれないな。」
きっと違うと思う。なぜなら上層部が直接連絡を寄こす時は大型の依頼が届いている時がほとんどで人材不足の所為で過重労働を強いる時だからだ。
「着替えたか?」
「一応。俺が返信しとくからお前は着替えてろよ。」
「ありがと。」
せっかくの厚意を無駄にするわけもなく、自分も急いで朝のうちに出しておいたスーツに身を包むのだった。
「ここで着替えるのな。」
「別に梓豪に見られて興奮とかしねーよ。つーか返信した?」
「したよ。まぁ、返答はもちろんあっちに行ってからだと思うけど。」
「了解。じゃあ行くか。」
基本的に連絡をよこすだけよこして返信はしないのが二人の上層部の対応の仕方だった。こちらが何を送ろうと何も返してこない。自分勝手な連中なのだ。
「免許はあるから大丈夫か。」
「まぁ、なくても何とかなるし。」
あの後やはり返信は来るはずもなく仕方なく現地で話すために駐車場にいるわけだ。
俊煕のマンションの地下駐車場に行くと黒塗り、新品の車があった。もちろん一キロも走っていない真新しい車だ。
「車、買い替えたの?」
「買い替えたほうが安かったんだもん。車体は全壊してて再起不能状態。直すのに新車と同じ値段だったら新車買うでしょ?」
「確かにな。」
「今日の運転は任せた。」
「はいはい。」
住処を提供する代わりに俊煕は梓豪によく運転や買い出しをやらせることが多い。ちなみに俊煕も運転はできるが未成年だからという理由でよく梓豪が運転をすることが多いのも事実だ。
「おお。いい感じじゃん。」
「でしょ。」
何回か車種を買い替えるうちに何が自分たちにあっているのかわかるようになった。今の自分たちが最高のパフォーマンスを出せる車を選んだ。仕事全体に誇りをもっている俊熙にとって消耗品であっても何かを妥協することは嫌だった。
「しゅっぱーつ」
幼い声とは裏腹に見た目の割に厳ついエンジン音をふかしながら相方はスタートを切った。
「走りはどんな感じ?」
「いいよ。乗り心地は今までの中で一番いいかもしんない。」
「そっか。じゃあ高速乗って飛ばそうか。代金は俺が持つ」
「まじで?!じゃあ乗るわ。」
本来なら割り勘にするところだが車をこんなにも楽しそうに乗る相方を目にしたらどうしてもおごりたくなってしまう俊煕だった。
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