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「着いたな。」
あの後高速道路に乗り、予定より早く目的の場所に着いた。高速に乗ったというのと法定速度をぶっちぎりで破っていた所為もあって少し時間が余ってしまった。五分前どころか10分前行動をしてしまった二人は時間をつぶすべく、会場の近くの喫茶店に足を運んだ。
「お決まりでしたらお声をおかけください。」
「あ、アイスコーヒー二つ。」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
店内に入るとエアコンの涼しい風がスーツ越しにも伝わってきた。この冷たい空間から出るときは次の任務の開始を意味する。だからと言って遅れて出ても結果は変わらない。余計なお小言が増えるだけ。余計な手間は省くにすぎる。
「お待たせしました。アイスコーヒーになります。」
「ありがとうございます。」
「ごゆっくりどうぞ。」
今朝のファミレスのような無機質な機械音ではなく、ちゃんとした人間の声に安堵感を覚え、冷たいコーヒーの一口目をいただいた。
「長い間通ってるけどここのコーヒーってうまいよな。味変わんないし。」
「そうだな。まぁ、でも一時期豆の種類が違って風味が違た事があったな。」
「そうだっけ?」
今から数年前に物価がありえないほど急上昇したことがあった。店主は渋い顔をしながら近しい豆を購入していたが、それ以降は豆もいつもの種類に戻って味も変わらなくなった。
「これ飲んだら行こうか。」
そういって満タンから3分の1ほど減ったアイスコーヒーを指さしながら梓豪は言った。しかし俊煕のコップにはあと少量しか残っていなかった。
「つーか、飲むの早くね?」
「喉乾いてたから。」
「そっか。俺は運転途中に飲んでたけどお前飲んでなかったもんな。急いで飲むから待ってろ。」
「ゆっくりでいいけどな。」
時間を気にしているのか急いでコーヒーを飲む梓豪に「先に会計を済ませておく」と伝え俊煕は席を立った。
「お会計は760円でございます。」
「これで。」
丁度手元に小銭が無かったから仕方なく千円札を出して小銭をもらう。
「あ、終わった?」
「ちょうどな。よし、行くか。」
支払いを終え、小銭を財布に入れていたところコーヒーを飲み終わった梓豪がきた。二人入口にそろったところで忘れ物はないと確認して店を出た。
「報告とかだりぃ」
「それなー。しかも暑いし。エアコンつけないし。アイツらほんとに人間なのか?」
「たしかしー」
喫茶店を出た後、すぐ近くのビルの駐車場の中にある関係者以外立ち入り禁止の部屋から続く階段を二人は下っていた。
「報告するときだけ上着来てればいいよな?」
「いいんじゃね?」
暑すぎる大気にほだされながらコンクリート打ちっぱなしの通路を抜ける。
「ついたー!」
階段を降り、薄暗いところまできた。つい先ほどまで地上にいたからか一段と薄暗さに磨きがかかって見えにくい。一寸先は闇、とはよく言ったものだ。
「いつにもまして暗いな。」
「そうだな。そしてやたら声が響くな。」
「だな。ここも変わってきてるのかねぇ。変なところに金は使わないでほしいんだけど。」
「まぁ、行こうぜ。多分アイツら来てるだろ。」
この前来た時より音が響く廊下をコツコツ、と自分たちの足音が鳴る。知っている場所といえど不気味であることに変わりはない。
特に無駄話をするでもなく、二人は目的の場所まで歩いた。近づくにつれ怪しさが増す。
真っ直ぐ、ただ真っ直ぐ進んだ先にあったのは重く、頑丈そうな扉だった。いつもそこで仕事内容を更新し、結果を言う。業務は単純のはずなのに毎度、緊張感が走る。
ドアの前に佇んでいると、内側から声がする。
「入れ。」
「失礼します。」
その扉の向こう側は通路よりも広い空間が広がっていた。重々しい雰囲気の中、そこに居座るは二人の雇い主だった。
「さて、結果を聞こうじゃないか。」
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