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「あなたは鈍感です」
「うん」
「怒らないんですね」
「まあね。おまえなんて自分を構ってくれる男なら誰でもいいんだろ……って振られたんだもの」
自分が落ち込んだときには相談に乗ってもらったり慰めてもらったんだけど相手が落ち込んだときの励まし方がよくなかったみたいでさ、ほらあたしってすぐポジティブな方に持ってこうとするから相手が静かにもっと落ちていってるのに気づけなくてほんとバカでね参りましたよこいつは、と立て板の上を流れる水のような先輩の言葉を聴いた。
「そんなだから振られたんだ、そういうとこが鈍感だって言いたいんでしょ」
「半分違いますね」
「どこが」
「相手が自分のことを想って言ってくれたことなら、美味そうでもまずそうでも、一度は噛み砕いて呑み込むべきだと思います。そういう意味でも僕は相手の男に同情なんかできません」
相変わらず難しいこと言うね、と余計な一言を呟きながら先輩は頷いていた。
「んで、残りの半分は?」
「まだわかりませんか?」
「だってあたし、鈍感だもん」
悲しむ女は、へっ、と力なく鼻で笑う姿も美しく見えてしまう。
もっとも、同じ所作をすれば誰でも美しく見えるわけではない……ということを、僕は知っている。
「先輩だったらもうご存じだと思いますけど、僕にとっては他の何よりも、自分ひとりで過ごす時間が一番重要なんです」
「うん」
「夜型人間ですし」
「そうだね」
「その時間はいつも黙々と、やりたいことをやっています」
「結構なことだ」
「それを全部途中で放り投げて、今は先輩のことを見ています」
「ありがと。愛してる」
「言えるじゃないですか」
「きみもそうでしょ」
何がだ。
言い返すよりも先に、畳みかけるように先輩は唇を動かした。
「きみが、そういう意味で『も』、って言い回しに込めた気持ちって、こういう種類のことだったんじゃないの?」
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