部室に残る天気雨

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部室に残る天気雨

「サニー、タバコ買ってきて」 部室に入るなり玲音(レオ)先輩からお遣いを頼まれた。僕の本名は太陽(たいよう)なのだけど、こっちの方が呼びやすいという理由で先輩からはサニーというアダ名を付けられている。 新入部員がお遣いに行かされるなんてどこの大学だって同じだから我慢するべきだ、と数少ない同期は受け入れてるけど、僕は違う。そもそも僕は、嫌なことは一切しない主義を通しているからだ。 望まない小間使いなんて、断固お断りだ。僕は元気よく返事をする。 「はい喜んでー!」 「居酒屋かよ」 最後の一本であろうタバコを吸いながら、玲音先輩が顔をくしゃっとさせて笑う。ああ、今日もカッコいい。 部室の一番奥の、窓際のベンチに座って足を組むその佇まい。注ぐ夕陽に反射する眼鏡……たまらない。 そう、僕は望んでここにいるし、望んでお遣いに行くのだ。嫌々ではなく、僕の意志だ。 「お釣りはやるから。サニーの好きなお菓子とかジュースとか買っておいで」 「はい喜んでー!」 小間使いで構わない。駒だって良い。困っている先輩のためなら、細かい打算はなしでいく。 僕は部室を出ると、役に立てる喜びに、誰もいない廊下で独楽(コマ)のようにくるくると回った。
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