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曲の途中、横並びの合唱部員から1人だけステージの中央に出てきたのが玲音先輩だった。
明らかに、周りと違った。小太り眼鏡が多い中、1人だけ背が高く引き締まった体つきをしているからだけではない。纏っている雰囲気がもう、違ったのだ。
後ろの団員が直立不動で静止している中、先輩は少しだけ両手を広げると、ゆっくりと息を吸った。
そして、世界が変わった。
一瞬だった。ソロパートを担当する先輩が口を開き、発した雨の音。トップ・テナーによる瑞々しく透明な響きに、僕の心の全てが今まで感じたことのない色に塗り替えられていった。
こんなにも澄んだ声を、聴いたことがなかった。
『雨のおとがきこえる
雨がふっていたのだ
あの音のようにそっと
世のために働いていよう』
歌詞に重なった透明な声が僕の心にやさしく降り注いでくる。受け止めきれずに想いが溢れ、雫となって頬を伝い、そして、落ちた。
歌に感動するなんて、初めての経験だった。
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