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「夏だねえ」
「もうすぐ夏休みも終わるけどな」
「やめろやめろ。まだあと三日ある!」
湊は大袈裟に顔をしかめた。
はは、とその顔を見て笑った拍子に、ひとかけら残っていたソーダアイスが棒を伝ってぺしゃりと落ちた。
晴れやかな水色の塊はあっという間に溶けて、灰色のコンクリートの上で黒い小さな染みに変わった。
「あの絵みたいだ」
「え?」
「中村麻帆の描いた、絵」
まっさおな絵だった。
これでもかというような一面の青の中、左下から夕立雲のような不吉さを孕んだ暗い青が迫っていた。
右側には降り始めた激しい雨を思わせるいくつもの線。
縦横無尽に走る線の激しさに、切り裂かれるような痛みを感じた。
絵を見てひりつくような痛みを感じたのは初めてだった。
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