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雨の旅
旅先で雨に降られるということは全国津々浦々旅をしているとままあることで、珍しくもない。雨に濡れた自然の景色は晴れの時とはまた異なる顔を持ち、静寂の中で雨粒が打ち付ける音は神妙な気持ちにさせる。晴れの日とはまた異なった景色を見るのもまた一興だ。しかし、その趣深さをもたらす雨も度が過ぎると困りものだ。そんなことを思いながら私は窓の外を見つめた。朝方まで普通の雨だったが今や豪雨と化して窓の外に広がる草原と乗っている電車と窓を雨粒がたたきつけて、旧式の電車が奏でる懐かしい走行音は不快な雨音によってかき消された。終点の目的地まではまだ時間がかかる。鞄から本を取り出した。川端康成の『伊豆の踊り子』だ。この本を読みながら時間を潰すことにした。その間にいくつかの駅を通過した。
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