貴女の心に傘をさして

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*  今日は、この季節にしては珍しく雨が降っている。しとしとと雨音が窓を打ち、静かに部屋へと反響する。  前ほどは、雨が嫌いではなくなった。それに、雨を見ると、彼女と過ごした日々を思い出す。たった1ヶ月程度の話だけれど、それでも確かに、自身の中ではとても大切な記憶だ。 「なに一人でニヤニヤしとんねん」 「してねえし」 「しとったわ。それより、ほら。手紙届いとるで」 「……おう」  手紙の差出人を見て、またつい笑みを漏らす。彼女は変わらず元気にやっているみたいだ。  手紙をもらったからには返事を書かなければ。文字を書かなければならないけれど、前ほど苦ではない。これは、彼女から教わった大切なコミュニケーションの方法だから。  そうしてペンを持つと、不器用ながらも、少しずつ文章を書き始める。彼女と一緒に勉強した日々に思いを馳せ、懐かしさを覚えながら。
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