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あれは、雨が激しく家屋を打ち付け、弾け飛ぶ音がやけに響いてきた日だった。
目の前には、ぶら下がって動かなくなった父。それを見つけてしまった時、私の視界は全てその一点のみを捉えて、目を焦がしていくように動かなくなった。
同時に部屋中に響き渡るのは、狂乱した母の、奇声にも似た慟哭。そして、まだ幼い妹が発する、耳をつんざくような甲高い泣き声。それに対して、喉をすり潰しそうなほど、大声で怒鳴り声をあげる弟。そんな中、数多の発砲音にも似た、雨が地面に打ち付けられる音。
全てが混じって、ぐちゃぐちゃになって、耳もとを通じて、頭の中が破壊されていく心地がした。目の前で切り取られた父の姿が、同時に混在するたくさんの音に紛れ込み、かき消されてしまいそうだった。
母が金切り声をあげて。妹が泣き叫び。弟が怒号を発し。もう何も聞きたくない。何も聞きたくなかった。だから私は、その裏で流れる、雨の音に意識を手繰り寄せた。耳をそっと塞ぎ、全てが雨音と父だけで構成された私の体の中は、ひどく心地がよくて、そのまま、静かに目を閉じて、全てを雨音に委ねた。
もう、私の中の世界は、この音だけでいい。そう思っていたら、
本当に、私の世界は、雨しか聞こえなくなった。
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