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よく葉を茂らせた木々を被った山々と谷合ののどかな農村を間近に見下ろすそこは穏やかな風が吹き、登り始めた朝日を受けゆっくりと目を覚まそうとのんきな様相にも見えたが、雲間に立つ私達はこれから挑む事を前に身を正していた。
試験は年に一度だけ。適性が無いと判断されればそれ以降は受ける事も出来ない。
私は過去二度失敗している、今回同時に受ける他の二人も顔つきからして初めてではないだろう。
これまでも試験は単独では無かった。最初の時は四人、二度目の時は二人で同時に行われた。そして今回は三人だ。
それはダンスの試験に似ている。フィギュアスケートなどは個々で審査が行われるが、それは技がどんなものであるのか明確であり、それが出来たかできないかの判定で評価が出るが、ダンスは流れの良さや表現の巧みさで判断するからだ。それゆえ技量や個性を比較しやすい同時審査が行われる。
これから私達は他者より優れている事を示さなくてはならないのだ。
滑らかな髪の少女、スポーツ刈りの男性、二人が私のライバルだ。
朝日が陰り始める、谷合に霧がかかる。
「アン、ティキ、ナウ、準備は良いな」
試験官の声に私達は応じる。
世界を潤し響かせる務め手、奏雨者となる為に。
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