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矛盾するようですが、お父さんは僕たちの活躍を喜ぶ一方で、自分の役目が終わってしまうのを悲しんでもいるのです。あれだけ自分が大活躍していた時代が過ぎ去ってしまうことを、刻一刻と過ぎゆく時間の中で改めて感じているのだと思います。
眼前を通り過ぎていく人のうち、お父さんの存在に気づいてくれる人もちらほらいましたが、残念なことに、お父さんに仕事を託す人は今のところ1人としてあらわれません。
その件に関しては、お父さんは何も語りませんが、きっと心の中は切なさでいっぱいだろうと思います。お父さんの胸中を想像すると、僕も切ない気持ちになってしまいます……。
空が暗くなってもうずいぶんと時間がたってしまいました。時計を見る頻度が高くなっているのは、僕もお父さんも同じです。
残すところ数十分で終わりを迎えてしまう。約束の時間が訪れてしまう……。
僕が悲しみに暮れていたそのときでした。
午後5時頃からずっと、お父さんが立っている場所と向かい合わせに置かれている、古びた木のベンチに腰掛けていた高齢の女性が何かを決意したように立ち上がり、お父さんに仕事を頼んだのです。
お父さんは胸を張って、その女性に対し自分の深緑色の体を捧げました。お父さんの大きな体には、皺の寄った細い手によって美しい白い文字が綴られました。
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