約束の時間

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『英次郎さんへ。約束の時間まで待ちましたが、もうすぐ最終列車が来てしまいます。私にとって、20年前のあの日までの時間はとても素敵なものでした。だから後悔はしていません。ありがとうございました。定子』    お父さんは、誰かの誰かに向けた大切な言葉をずっと代弁してきました。そして、最後は定子さんの言葉を代弁しました。  最後に託された言葉は英次郎さんに届くことのないまま、お父さんは亡くなってしまいました。でも、お父さんはお父さんが引き受けた仕事を全うしたのです。  そしてまた、定子さんがお父さんの体にしたためてくれた文字のおかげで、お父さんはきっと、心おきなく永い眠りにつくことができたのだと思います。  僕も、僕の兄弟たちも、そう信じています。  お父さんの死因は、僕たち兄弟が増え過ぎたせいであるのは間違いのない事実です。けれども、お父さんは決して僕たちを恨んだりはしていませんでした。  僕たちが優秀な通信機器として成長したことにより、お父さんの仕事がなくなり、結果的にお父さんの寿命をも縮めてしまいましたが、片田舎の駅の伝言板として、立派に任務をこなしてきたお父さんの存在は、僕たち兄弟の胸にはもちろんのこと、お父さんとともに、長らくこの駅で働いてきた僕のご主人さまの胸にもしっかりと刻まれています。  お父さん、長い間お疲れさまでした。  これからはゆっくり休んでください。兄弟一同。〈了〉
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