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「場所を変える……ですか?」  レオは座席シートの一部にもたれかかりながら腕を組む。そのまましばらく動くことはなかったが、そんなに時間の経たないうちに「分かりました」と彼が呟いた。 「ご本人がそうおっしゃるなら、場所を変えましょう。ちょうど、移動ができそうなので」  レオの右手がゆっくりと上がる。その方向を追うと、後部座席の手前あたりに扉が出現している。紫色に光ってはいなかったものの、あかりとレオがさっき通った扉と同じもののようだった。得体の知れない扉を前に佐和子は戸惑っていたが、レオは手早く扉を開いて、ひとりだけそそくさと中へ入っていく。 「ちょっ、こらっ! ……ごめんね。これ、私もさっき通ってきたやつだから大丈夫。さあさあ、行こう」  すでに姿の見えなくなったレオに苛立ちつつ、あかりは佐和子を手招きする。佐和子は乗り気ではなかったが、扉とバスの車内の交互に見比べて折り合いがついたらしい。ゴクリと唾を呑み込み、真っ暗な扉の中へ歩みを進めていった。
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