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 左頬にヒンヤリとした感触。それを知覚すると、徐々に意識が鮮明になっていった。  辺り一面に広がる白の世界。  こう表現すると、すごくファンタジックなものに聞こえるかもしれないが、状況はまるで違う。そこにあるのはただの白い空間で、全体が真っ白ゆえに壁や天井を確認することはできない。  どこまでも白。  不安なくらい白が続いている。 「あの」  突然発せられた声に反応して顔を動かすと、倒れ込んだ自分を覗き込む少年がひとり。 「月島あかりさん、ですね?」  黒のロングコートに身を包んだ少年が、ポケットに手を突っ込んだまま直立している。よく見れば、ワイシャツにスラックス、ベルトに革靴まですべて真っ黒だ。  あかりはゆっくりと上体を起こし、彼の顔を凝視した。自分の名前を知っているということはどこかで会った誰かのはず……しかしながら、ピンとくるものがない。正真正銘、初対面で間違いなさそうだった。 「えっと……」  あかりはさっそく尋ねようとした。彼が何者であって、なぜ自分のことを知っているのか。しかし、それより早く彼の口が動く。
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