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 しばらくして、小さな溜息が漏れ聞こえた。 「まあ、そうですね。ここについて説明しておきましょうか」  彼は斜め上のあたりを一瞥した。彼が待っている『誰か』とはまだ連絡が取れないらしい。その証拠に、彼の視線はすぐあかりの元へ戻ってきた。 「ご存知のように、人間は死んだら天国か地獄に送られます。善人なら天国、悪人なら地獄ということになりますが、それには当然なことながらその人がどんな人生を歩んできたかが判断材料になってきます。ここは、亡くなった方々の生前の記憶を確認し、天国行きなのか地獄行きなのかを分類する空間になります」 「分類……」  零れ落ちるように出て来たあかりの言葉に彼が小さく頷く。 「さっき、あなたは『閻魔様』という表現を使用していましたが、この空間の役割がまさにそれです。実際は『閻魔様』という人物は存在せず、記憶の確認や整理、最終的な行き先の決定を行うのもすべて機械です。だから、僕の仕事もないに等しいんですけどね、こんな事態が起こらない限りは」  そう言って、彼は真上を睨みつける。すると次の瞬間、頭上から機械音のようなものが聞こえてきた。音の方向を目で追うと、あかりの頭より少し高い位置の空間がグニャリと歪んで、SFに出てきそうな青白い空中ディスプレーが出現した。ディスプレーの中には、インカムをつけた女性が映り込んでいる。
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