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「どうなってるの……?」
声のする方に視線を向けると、例の彼女があかりと同じように窓ガラスの上に立っていて、不安げに辺りを見回している。あかりは今一度辺りを注視した。無音の車内ではあかりたちの靴音が響くのみ。空中には、持ち主の分からない鞄やスマホが宙に浮いたまま静止している。本来「床」である部分は左側面に来ていて、乗客は体が浮きかけている数名を除いて、ほとんどが座席シートに張り付いたように座っていた。
「土砂降りの中、スピードを緩めないまま大きな急カーブ。実に分かりやすいです」
唐突に響く淡白な声。振り返れば、レオがポケットに手を突っ込みながら、慣れた様子で辺りを徘徊していた。
「私、死んだの?」
小動物のような小さな瞳を潤ませながら、後部座席の方まで移動していたレオの背中を彼女がじっと見つめる。視線に気付いたのか、しばらくしてレオがゆっくりと踵を返した。
「おっしゃる通りです、仁科佐和子さん」
レオの言葉に、彼女が目を見張ったのは言うまでもない。
「私の名前を知ってるの?」
彼女の声が小さく震える。しかしレオはその問いに答えることはなく、ズイズイと佐和子との距離を詰めていった。
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