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+++ 「と、いうわけです」  その声を合図に、あかりは目を覚ました。改めて辺りを見回すと、自分は真っ白な空間に戻っていて、目の前には例の男の子が立っていた。あかりは、自分の身に起こったことがすぐに理解ができなかった。 (全部夢? ……いや、むしろ夢であってほしい!) しかし、そんな願いも虚しく、頬を抓ればピリッと痛い。あのとき大遅刻したことも、それで事故に遭ったのも事実だった。そして、状況から考えてここは『あの世』に違いない。高校二年生、十七歳──あかりは、その短い生涯に幕を下ろしたことになる。 「では、次の行程に移ります」  声のする方に顔を向けると、いつのまにか彼が遥か後方に移動している。そのことにも驚いたが、振り返った光景を見てあかりは言葉を失った。  何もなかった空間に、突如として扉が出現している。それは、中世ヨーロッパに登場するようながっちりとした木製の扉で、前に立っているだけで威圧感を覚えるような大きな扉だった。彼が手を触れると、その扉はたちまち黄色に光出した。 「さぁ、どうぞ」  彼は扉から離れ、そばに来るようあかりに促した。  黄色の光はユラユラと扉を撫でていて、扉全体が燃えているようにも見えた。その光に引き寄せられるように、あかりはゆっくりと扉へ近付いていく。そのとき、自分のすぐ近くがほんのりと光り始めた。驚いて視線を落とすと、自分の右の拳が同じように黄色く光っている。 「わっ」  あかりは反射的に右手を振り払った。すると、黄色く光る何かがあかりの手から滑り落ち、真っ白な床にコツンと落ちた。
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