4人が本棚に入れています
本棚に追加
目が覚めた。
今まで眠っていたようだ。
いや気絶か?
古い夢を見ていた。
もう思い出せないが、無性に懐かしい。
腕が痛い。
「アトハチ!
目覚めたか、よかった!」
カイの声がする。
首を回すと、横にいてこちらを覗き込んでいる。
視界がクリアになる。
「どうなった…」
カイはその顔を歪める。
「…お前のいう通りだった。
プラントは崩壊したよ。
シェルターの中にも呪風が入り込んで、
人口の4割が犠牲に…」
身体を起こす。
「あいつはどうした!
Δ588-7は…」
「なに?」
カイの後ろからひょこりとのぞく。
あの幼く造られた顔が、起きて動き、しゃべっていた。
嵐が去って。
青空。
人工月は今日も変わらず空に浮かぶ。
テントを出て瓦礫の中を歩きながら、空を見上げる。
「無事だったんだな」
「あのカイさんというのが、
探しにきてくれたようで、
見つけて再起動してくれた」
「あいつ、元はメディカルロボだから。
こういう時は頼もしいな」
「あなたの意識が戻らないので、
心配していた」
「俺は、一体何が…」
「主電源を落としたわけじゃなかったって。
私のいう通りにはしなかったんだね」
「誰がするか」
意識が途切れる間際。
生命活動を停止したはずのΔ588-7が動いたのは、気のせいじゃなかった筈だ。
「お前、
二度とするなよ」
「しないよ。
あんなのはもうごめんだ」
「あんなの?」
こちらを見る。
何も言わない。
「取り憑かれたことか…」
腕が軋む。
「…呪いというのは、
ニンゲンというのは怖い。
滅んでなお、
命を奪おうとするなんて」
震えている。
「二度と、
命を手放すようなことはしない。
呪いにこの身体を明け渡すことも、
あなたを傷つけることもしない。
ごめんなさい」
下げられた頭を、ポンと叩く。
「よし」
「ねえ、聞いてもいい?」
「なんだ」
「呪いに侵されても、
崩壊することなくそれを退けられるなんて、
あなたは何者なの?」
右腕が。
軋む。
「俺にも分からない」
いくつもの国が滅び。
街が壊れていく中で。
なぜ自分だけが。
滅びないのか。
「俺は、
何者なんだろうな…」
主人が刻んだ命令。
もう自分でも思い出せないその命令が。
自分をいつまでも生かし続ける。
続
最初のコメントを投稿しよう!