機械仕掛けの終末

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「北東に呪風を視認」 通信機に向かって一言。 言う間に、影はその高さを増していく。 「速いな」 痛みの消えない右腕を動かし。 見張り台を降りる。 警報が鳴る。 『北東方向に呪風発生。  レベル4-a。  到達予想時刻は14:47。  地下シェルターへ避難してください』 ここはニンゲンが最後に作った、人工生命体生成プラントの一つ。 巨大なプラントを取り囲むように一つの都市が発展し機能している。 その中心。 プラントの中央制御塔に、ATO-88598-Λ212は入る。 「アトハチ!  見てきたか!」 「カイ」 呼び止められる。 アトハチというのは、ATO-88598-Λ212の略称であり愛称だ。 「かなり速い。  高さもあった」 「ああ、レベル4は初めてだ」 「…プラントは落ちるかもしれない」 中は人工生命体たちでごった返している。 避難誘導のために規則正しい靴音を響かせて、次々外へ出ていく。 いくつものモニターを見上げる。 都市中に張り巡らせた監視網。 まだ内部に異常はない。 「外縁部の強化壁を新しくしたばかりだ」 そう言うDFB-70991–χ032は、レベル4以上の経験はない。 「意味ないよ」 腕が軋む。 「アト…」 「とにかく去るまで地下で耐えること」 振り返る。 正面の窓の前に。 巨大な砂嵐が迫っていた。 「はや…」 青い巨大な風の渦は、不気味に蠢きながら近づいてくる。 「避難はどこまでできてる?」 オペレーターに聞く。 「85%は完了した。  あとは…」 「あとは?」 「プラント内だけ。  段階的に地下格納庫へ移送しているが、  20分前に生成の最終工程に入った6個体は、  到達までに格納が間に合わない」 「いつ終わる」 「あと6分」 「俺が行く」 走り出す。 風が不気味に吹いている。 青かった空は曇天。 夜でもないのに暗い。 ニンゲンは、死に絶えた後にもこの世界に災いを残した。 呪いという名の嵐。 ヒトがヒトを。 恨み。 憎み。 蔑み。 貶める。 滅びの直前、殺し合ってふくれ上がったニンゲンたちのその感情は、風となり波となり押し寄せ、この世界を侵している。 呪いによって汚染されたこの星は、もう瀕死だ。
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