4人が本棚に入れています
本棚に追加
かつて暮らした故郷は、呪いの炎に焼き尽くされた。
流れついた、いくつもの街や村がヒトの呪いに侵されていった。
始まりはどこだったかも思い出せない。
この都市も、同じ道を辿るのか?
鉄で組まれた階段を駆け降りる。
かつてニンゲンが組み立てた、人工生命体を作る繭。
今は同志を作るために動かしている。
古い階段は崩れ落ち、新たに組んだ鉄の階段を降りていく。
最終工程に入った6体の身体。
すでに個体ごとの人格は固定され、身体が仕上がれば目覚めを待つだけだ。
1体ずつ頭蓋が閉じられていく。
制御盤へ近づく。
自然覚醒を待つ時間はない。
すぐに目覚めさせてシェルターへ逃さなければ。
Δ558-7、起動。
1体目が目を開ける。
視点が定まらない。
強制覚醒したのだ。
聴覚を通して伝達し、この個体の判断を待つ時間はない。
最優先命令に、シェルターへの避難を入力する。
目的を持ち。
状況把握が始まる。
幼く造られた顔が、あたりを見渡す。
プログラム通りに困惑の表情を浮かべている。
「シェルターへ急げ」
廊下を指す。
視線がその先を辿る。
腕が持ち上がり、最後に残った非常用有線を外す。
足が一歩前へ出る。
動き出した。
『アトハチ!
もう来るぞ!』
「分かってる!」
次。
2体目の頭蓋が閉じようという時。
唐突に。
その身体が崩れた。
「…間に合わなかった」
『アト?』
壁から。
地面から。
青い風が吹き込む。
いや、染み出すという感じだ。
鉄の壁が歪む。
腐れ落ちるように。
青い風は。
あの速さなどどこへいったのかと思うほど。
静かに。
忍び寄る。
笑い声がする。
クスクスと。
いや泣き声か。
しくしくと。
脳の回路が侵される。
崩れ落ちた5体の身体が。
青い影に覆われていく。
「くそ!」
走り出す。
追いかける。
前を走っていた。
最初の1体が。
扉に触れようとするのを。
「待て!」
引っ張って止める。
が、思いのほか軽いボディはふわりと浮き上がり、勢い余って2人で後ろに倒れ込んでしまった。
扉からじわじわと青い風が吹き込む。
危なかった。
この通路も使えない。
首がくるりとこっちを向く。
まずい。
最優先命令を邪魔した。
場合によっては敵認定される。
「なぜ止めた」
「呪風が吹いてる。
触れると神経回路を侵される。
別な通路を使うぞ」
一瞬の演算の間をおいて。
Δ558-7は頷いた。
「了解」
よかった。
手を引いて立ち上がる。
最初のコメントを投稿しよう!