機械仕掛けの終末

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かつて暮らした故郷は、呪いの炎に焼き尽くされた。 流れついた、いくつもの街や村がヒトの呪いに侵されていった。 始まりはどこだったかも思い出せない。 この都市も、同じ道を辿るのか? 鉄で組まれた階段を駆け降りる。 かつてニンゲンが組み立てた、人工生命体を作る繭。 今は同志を作るために動かしている。 古い階段は崩れ落ち、新たに組んだ鉄の階段を降りていく。 最終工程に入った6体の身体。 すでに個体ごとの人格は固定され、身体が仕上がれば目覚めを待つだけだ。 1体ずつ頭蓋が閉じられていく。 制御盤へ近づく。 自然覚醒を待つ時間はない。 すぐに目覚めさせてシェルターへ逃さなければ。 Δ558-7、起動。 1体目が目を開ける。 視点が定まらない。 強制覚醒したのだ。 聴覚を通して伝達し、この個体の判断を待つ時間はない。 最優先命令に、シェルターへの避難を入力する。 目的を持ち。 状況把握が始まる。 幼く造られた顔が、あたりを見渡す。 プログラム通りに困惑の表情を浮かべている。 「シェルターへ急げ」 廊下を指す。 視線がその先を辿る。 腕が持ち上がり、最後に残った非常用有線を外す。 足が一歩前へ出る。 動き出した。 『アトハチ!  もう来るぞ!』 「分かってる!」 次。 2体目の頭蓋が閉じようという時。 唐突に。 その身体が崩れた。 「…間に合わなかった」 『アト?』 壁から。 地面から。 青い風が吹き込む。 いや、染み出すという感じだ。 鉄の壁が歪む。 腐れ落ちるように。 青い風は。 あの速さなどどこへいったのかと思うほど。 静かに。 忍び寄る。 笑い声がする。 クスクスと。 いや泣き声か。 しくしくと。 脳の回路が侵される。 崩れ落ちた5体の身体が。 青い影に覆われていく。 「くそ!」 走り出す。 追いかける。 前を走っていた。 最初の1体が。 扉に触れようとするのを。 「待て!」 引っ張って止める。 が、思いのほか軽いボディはふわりと浮き上がり、勢い余って2人で後ろに倒れ込んでしまった。 扉からじわじわと青い風が吹き込む。 危なかった。 この通路も使えない。 首がくるりとこっちを向く。 まずい。 最優先命令を邪魔した。 場合によっては敵認定される。 「なぜ止めた」 「呪風が吹いてる。  触れると神経回路を侵される。  別な通路を使うぞ」 一瞬の演算の間をおいて。 Δ558-7は頷いた。 「了解」 よかった。 手を引いて立ち上がる。
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