雨音アプリ

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「あなた、今日も遅くなるの?」 九月の半ば、まだ日差しの強い朝、出かける私に向かって妻の悠里が言う。  私は大手不動産デベロッパーで都心の駅前の再開発を担当している。  現場へ足を運んで課題を一つずつ解決していく。テレワークだけでは、決して良い仕事はできないと思っている。  効率と経済性だけでは、良い仕事はできないし良い施設も建設できない。どんなものにも多少ムダと思われる空間や遊び心が必要だ。  そして、それが人の大切な逃げ場となっている。  駅へ向かう途中、いつものように双子の小学生男児とすれ違った。 「おはようございます」と彼らはいつも二人同時に、元気よく挨拶をしてくる。元気は子供の特権だ。  電車の中で、何気なくスマホの画面を見ていると、見慣れぬアイコンがあった。  〝雨音〟とだけ表示されている。〝あまおと〟それとも〝あまね〟なのか。  不審なアプリをインストールした憶えはない。
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