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「いつもと違う毎日が始まる」―――今日から高校の夏休み、というだけではない。座り慣れた学習机の椅子にさえ落ち着かない。
出鶴は伏せがちな視線で机上を見つめ、消しゴムを掴んで溜め息をついた。勉強が捗らないのは暑さや雑音が理由ではない。諦めて、蝉の合奏が響き入る窓を見た。立ち上がり窓を覗くと、ラジオ体操の曲が微かに聞こえている。
出鶴は 小学生の頃から、この白舞家で父と2人で暮らしてきた。それが突然、今日から4人の生活になる。紙切れ上の母と、1つ下の妹ができたのだ。
4人が集まると、出鶴は馴染めず あたふたしていた。
父は多くの時間を妻となる人と過ごし、その娘・羽音とも 出鶴より多く会っていたのだから、当然とも言える。しかし、出鶴は特別 人の輪に入り込むのが不得手な性格だ。3人の会話を聞いて相槌を打ったり、笑って遣り過ごすのが精一杯で。中でも受け答えにまごつくのは学校の話題だ。
羽音が嬉しそうに「同じクラスだね!」と言う。
出鶴が見つめ返しながら「え?…あ、学年は違うけど。」と言うと、
「あ…ってか、1月生まれなんだわ、アタシ。」と返され、
出鶴は「え……、」と一声出したきり言葉が詰まってしまった。
イジメに遭っていることを家族に知られたくない出鶴は、学年が違うなら羽音に知られず、巻き込まずに済むんじゃないかと淡く願っていたのだ。深く願えないのは、心を殺してしまったからだろう。
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