64人が本棚に入れています
本棚に追加
/108ページ
「……さて、到着」
里深は琴葉の家の前に、静かに車を停車させた。
「ありがとうございました。疲れてるのに家まで送ってもらって」
里深が下ろしてくれた荷物を持って、琴葉は里深にお礼を言う。
「どういたしまして。ことちゃんだけじゃないんだから気にしなーい」
「あ、薬代。遅くなってすみません!」
琴葉が財布から1万円札を出した。
里深はニッコリ笑う。
「お釣りないから、また今度でいいよ」
里深はやんわり断った。
「お釣りは良いですッ!受け取ってください!」
今回ばかりは、琴葉も引き下がらない。
旅行代金だって、絶対に安すぎると分かっている。実際に破格だったのだ。
今渡さないと、きっと次回会ったとしても、また上手くはぐらかして受け取ってもらえないと思った。
「……じゃあ、お釣りは次回渡すね」
仕方なく里深は受け取る。
「いえ!本当に!最初の時の飲み会の時も支払わずに終わってたし、絶対に気にしないでください!」
律儀すぎる琴葉に、里深はフッと微笑む。
「あ、ちょっと待っててもらって良いですか?」
琴葉は急いで家の中に入ると、冷蔵庫からペットボトルのコーヒーを出して里深の所に戻った。
「帰りに飲んで下さい」
里深が飲んでいた、空のペットボトルをドリンクホルダーから抜き、そこに新しいコーヒーのペットボトルを差し込んだ。
「あ、ありがとう」
琴葉の行動に里深は驚く。
「いえ!家にあったの思い出しただけです。少しは眠気覚ましになるかなって」
琴葉の気遣いに里深は笑顔になった。
「十分なるよ。コンビニに寄ろうと思ってたし、助かった」
「良かったぁ」
琴葉はホッとするが、その顔を見て、里深は心がギュッとなった。
「……じゃあ、またケーキビュッフェ楽しみにしてる」
「はい。気を付けて」
「うん。またね」
琴葉は手を振って見送る。
楽しい時間が終わった事に、琴葉も里深も、なぜか一気に寂しく感じてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!