64人が本棚に入れています
本棚に追加
/108ページ
「ことちゃん、良い子すぎるし」
堪らなくなり、里深はついポツリと漏らした。
「はい?」
何のことかと琴葉は聞き返す。
「ううん。ことちゃんは優しいなと思ってね」
「そんな事ないですよ。普通です!」
褒められて琴葉は焦る。
里深はフッと軽く息をつくと、顔を横に向けて外を眺めた。
「本当に好きになる相手ねー。でも今までも、そこまで熱い恋愛ってしたことなくてね」
何を正直に語ってるんだと思いながらも、里深は琴葉に素直になっていた。
「私はまともな恋愛もしてないので、お付き合いって事がよく分かりません」
里深は琴葉に顔を向ける。
「でも片思いだって立派な恋愛だよ。逆に俺より前向きだよ。ことちゃんが好きだった相手と結ばれなかったのは、次の恋愛のためだったかもしれない」
自分の恋愛を肯定して貰えて、琴葉は嬉しくなる。
次の恋愛のためだったのなら、それは里深にも言える事だと琴葉は思った。
「じゃあ黒部さんも、同じですね。この先、熱くなるほどの恋愛をするのかも」
琴葉の無邪気さは、里深の心を軽くする。
この先の自分の立場の、焦りや気負いを楽にしてくれる。
「……だったら良いな。本当の俺をちゃんと見てくれて、俺もその相手だけを見れる恋愛ってしてみたいかも」
ただ、そんな相手が現れるのかと里深は考える。
そんな風に思う自分が、琴葉にアドバイスできる立場でもないと思えてきた。
「それ、私も理想です。そんな恋愛できたら楽しいな。やっぱり黒部さんの話、聞けて良かった」
里深は素直すぎる琴葉にハッとする。
遊馬が羨ましいと思ってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!