Day10. くらげ

1/1
前へ
/31ページ
次へ

Day10. くらげ

 この街はクラゲに支配されている。見上げれば空にクラゲが飛んでおり、見下ろしてもクラゲが足元を泳いでおり、壁にはクラゲが描かれ看板にはクラゲがデザインされている。底の浅いお椀を伏せたような頭に、何本も生えた紐のような手足。そいつらに人間は争うことができない。  何せ彼らは行動が早い。泣き叫ぶ子供の元に行って大量の手足でウサギやアンパンマンを模ってくれるし、居眠り運転の車に忍び入って運転手の首元に冷えた頭をつけてくるし、寝坊した会社員にはゆったりと空を行く遅刻確定タクシーとして自らの頭の上に乗せてくれる。テレビCMにクラゲは欠かせない。澄んだ体が映える暑い日はもちろん、冬だってその滑らかな手触りを思わせる頭が師走の癒しとして人気なのだ。  この街はクラゲに支配されている。クラゲなしには快適に生きていけようもない。 ----- 20220710
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加