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Day11. 緑陰
日差しの良い日には鳥がさえずる。軽やかなその声は森の中へと響いて、今が晴れだと教えてくれる。外へおいで、おひさまの光が心地良いよ、と。
その声を聞きながら目を閉じる。葉こそ生き生きとした緑だというのに花の一つも咲かせないことで有名な木の根元、背を寄せ頭を預けたその木の幹は硬く、枕には適していない。それでも懲りずに昼寝を決め込めば、上空を覆う枝葉が笑うようにさわりと揺れた。木漏れ日が時折瞼を焼き、けれどすぐに木陰が瞼を冷やす。痛みはなく、寂しさもない。愛されているのだと知る。このまま時間を過ごしていたいと思う。日が沈まず木の葉も落ちない永遠がここにあれば良いと思う。
「あるよ」
声が言う。
「ここにあるよ。永遠が、今から。――おかえり」
ただいま、と呟く。乾燥した唇はもう動かない。しわがれた声も出ない。瞼は開かず、老いた体はもはや身じろぎもできない。
永遠が始まったからだ。
遠いあの日に始まった君の「永遠」に、ようやく寄り添える日が来たのだ。
この森には一つの大木がある。
寿命により木と化した半人半霊とそれに恋した人間が幾十年の時を経てようやく共に眠ったという物語のある、恋する乙女のような薄桃色の花を毎日咲かせる大木である。
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20220711
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